知事の「公表」問題で揺れた全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)、本来の目的は何だったか-渡辺敦司-
文部科学省(文科省)が毎年実施している全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)について、静岡県の川勝平太知事が全国平均以上の成績を挙げた学校の校長名や市町別成績を独断で公表した問題が、一応の決着を見ました。一時は下村博文文部科学相が調査の実施要領違反を理由に、違反が続けば同県には調査結果を提供しない構えを見せていたのですが、全国知事会との意見交換の席で両者が直接会談して「ルール違反については理解していただいた」(下村文科相)として来年度以降も提供を続ける考えを示したからです。今回の騒動から何を読み取るべきでしょうか。
川勝知事は2013(平成25)年度の調査で、小学6年生の国語A(主に知識を問う問題を出題)の平均正答率が47都道府県内で最低になったことに激怒し、平均正答率の下位100校か平均点以下だった学校の校長名を公表したい考えを表明して同県教育委員会はもとより文科省とも対立。結局は独断で全国平均「以上」となった86校の校長名のみを50音順でウェブサイトに載せました。2014(平成26)年度の小学校国語Aの平均正答率は全国平均値並みに急上昇したものの、「努力をたたえたい」として昨年と同様の方法で262校の校長名を公表しました。併せて、市町別の各テストの平均正答率も公表しました。
こうした川勝知事の行動には、いくつかの問題があるのも確かです。たとえば、同県教育委員会の同意を得ていないことです。教育行政は首長ではなく教育委員会(選挙管理委員会などと同じ「行政委員会」の一種)が執行することになっています。この点は教育委員会制度が改革(外部のPDFにリンク)されて首長の一定の関与を認める2015年4月以降も、変わることはありません。ただ知事が教育委員会の了解を得ていたかどうかなど、見解の相違もあるようです。
そうした静岡県の細かい事情は、ひとまずおいておきましょう。テスト結果の公表問題は、ほかの自治体でもくすぶっています。ここで、本質に立ち返る必要がありそうです。それは、「全国学力・学習状況調査は、何のためにやるのか」ということ、そして、結果をどう受け止めるべきかということです。
文科省の実施要領によると、児童生徒の学力や学習状況を把握し、教育指導の充実や学習状況の改善に生かすとともに、継続的に改善できるサイクルを確立することがねらいです。そのため結果についても、個別の成績を公表する場合には数値だけでなく分析や改善方策もセットにして公表すべきことを定めており、その取り扱いについては通知でも別途、注意を促しています。
川勝知事は「学力や子どもの教育の責任は先生にある。学力低下の責任も、学力が戻ってきた功績も先生にある」と、校長名を公表した理由を説明しています。ただ、肝心なのは結果の責任追及や賞賛よりも、どうやって今後の「改善」(文科省実施要領)に生かすかです。そのためには教育行政の執行機関である教育委員会の対応はもとより、予算をつける権限を持つ知事など首長の役割も大きいことは、間違いないでしょう。