「小中一貫教育学校」なぜ必要?‐渡辺敦司‐

政府の教育再生実行会議が7月中にもまとめる第5次提言に、自治体などの判断で「小中一貫教育学校」(仮称)を設置できるようにすることが盛り込まれる見通しになりました。新しい学校種をつくった同様の例には、中・高6年間の教育を一体で行う「中等教育学校」(1999<平成11>年度から)があります。小中一貫教育といえば、公立でも既に一部で実施している地域があることはご存じのかたも多いでしょう。なぜ今、新しい学校種なのでしょうか。

その前にまず、どうして義務教育が6・3制になったかを振り返ってみましょう。戦前は義務教育が尋常小学校(戦中は国民学校)の6年間だけでしたが、中学校などに進学しない者の多くは2年制の高等小学校で学んでいました。このため、義務教育を8年に伸ばそうという計画もたびたびありました。戦後、米国で行われていた制度(州によって異なる)にならって6・3制を導入したのには、もともとあった尋常小学校に高等小学校プラス1年ぐらいならスムーズにいくだろうという現実的な判断もあったわけです。
しかし戦後70年近くがたち、その間の子どもの発達の伸び(外部のPDFにリンク)は著しく、身体的成長や性的成熟は約2歳早まっていると言われています。かつては小学校高学年でさまざまな問題を起こす「ギャングエイジ」が注目され、今では小学校から中学校に上がる時に学力・生活の両面で適応が難しくなる「中1ギャップ」の問題が指摘されています。6・3制の区切りが、今の子どもには必ずしも合わなくなっていることも確かです。

そこで2000(平成12)年ごろから一部の自治体で小学校と中学校を一体で運営する「小中一貫教育」に取り組む事例が、徐々に広がっていきました。正式な制度ではありませんので小中一貫教育校の正確な数はわかりませんが、学習指導要領を柔軟に運用できる「研究開発学校」や「教育課程特例校」の制度を使って学年の区切り(外部のPDFにリンク)を6・3以外にしているのは、4・3・2制が127校、5・4制が2校、5・2・2制が2校などとなっています。小学校の6年間を分けているのは、高学年は中学校と同じ教科担任制にしたほうが学力を伸ばすにも効果的だという判断があるようです。
しかし小中一貫教育を行う自治体があっても、制度上はあくまで別々の小学校と中学校です。小・中学校の校長を兼務させて1人にしているところが多いようですが、中には複数の校長を残した学校もあります。また、9年間をとおしたカリキュラムや指導方法を研究しなければならないなど忙しいにもかかわらず、通常の小・中学校を合わせた教員数しか配置されません。そのため一部自治体は、「義務教育学校制度」(仮称)の創設を要望していましたが、中央教育審議会の作業部会が検討の結果、2012(平成24)年7月に制度化見送りの報告(外部のPDFにリンク)をまとめたことがあります。

最近では少子化の進行を理由に小・中学校を統合する例も増えており、制度化に対する自治体の期待は高いようです。一方で、小中一貫教育を実施する自治体とそうでない自治体の間を転校する場合どうなるかなど、課題も残されます。


プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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