SNSの「不適切投稿」、背景は?‐渡辺敦司‐

スマートフォン(スマホ)の普及に伴い、悪ふざけ写真などの「不適切投稿」が社会問題になっていることは、以前の記事でも取り上げました。タップ(画面をたたく)一つで気軽に投稿できてしまうという機器の特性もあるのですが、その背景には実はもっと根深い問題があるようです。

先頃、東京で行われた教育関係者向けイベント「New Education Expo(NEE)2014」の一環として開催されたセミナー「『いいね!』が席巻するネット社会 ~SNS不適切投稿の背景を考える」で、この問題が取り上げられました。基調報告に立った土井隆義・筑波大学教授に関しては以前、別のイベントで「つながり依存」についての発表を紹介したことがあります。土井教授によれば不適切投稿も、リアルな社会で友達とつながっていたいためにネットに依存してしまうという関係性の中で起こっていることだといいます。
SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)のうちLINEは本来、限られたグループ内でのやりとりです。一方で、周りの友達にとどまらず知り合い同士が出会える設計にもなっており、実際には「多様な人間がつながる装置」なのですが、「仲間内だけでつながる装置」として依存するほど使っている人には、その区別が意識しにくくなりがちです。しかもスマホならLINEを使いながら、短文投稿サイト「ツイッター」に切り替えて同じ投稿をすることも簡単です。仲間に承認されたいという不安を常に抱えている子が仲間受けのためにした面白投稿が、知らない人にも次々と転送されたり「まとめサイト」に載ったりして、いずれ「炎上」してしまうのです。
もっとも、不適切投稿は仲間内なら許されるというわけではありません。コンビニエンスストアの冷蔵庫に寝そべる写真や、芸能人が異性を連れて店を訪れたのを目撃したといった投稿は、表に出れば一つの会社を潰してしまう「バイトテロ」とさえ呼ばれるほどの大問題です。土井教授は、ネットの問題としてだけではなく、閉じた人間関係を開いた人間関係にするというリアル社会の問題として考えなければならないと指摘しました。

土井教授らとともにセミナーに登壇した茨城県メディア教育指導員の鈴木慶子さんは、PTA役員として全国的にもいち早く子どもとネットの問題を取り上げ、2006(平成18)年度から県と連携して立ち上げた指導員の第1号となった人で、現在は学校の相談員も務めています。鈴木さんは▽保護者が安全・安心のために携帯電話(ケータイ)を持たせても、子どもたちは「誰にも干渉されず、好きなときに好きな相手とつながれる」と受け止める▽青少年インターネット環境整備法で保護者の責務が規定されているにもかかわらず、使用ルールを決めていなかったり、フィルタリングを利用していなかったりしている家庭が少なくない▽ケータイ以前に通信機能付きのゲーム機などで「ネットデビュー」している▽子どもたちもネットでのつながりに疲れている……と指摘しました。学校も家庭も「フィルタリングを掛けたあとどうするか」(土井教授)を考えることが急務のようです。


プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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