学校では今 【第17回】なぜ、勉強をするの?‐小泉和義‐
「なぜ勉強をするの?」
子どもからのこの問いに、適切に答えるのは意外と難しいです。今、学校ではこの問いにどう答えているのでしょうか? 「勉強」と「学び」を同義で使っている場合とそうでない場合がありますが、ここでは同じ意味として捉え、皆さんともこの問いの答えを探ってみたいと思います。
なぜ、勉強への意欲が変化するのか
子どもにとって、勉強をする意味は少しずつ変わっていきます。元国立小児病院院長でチャイルド・リサーチ・ネット名誉所長の小林登先生は、「赤ちゃんは、インフォメーションシーカーである」とおっしゃっています。世の中にあるものすべてが新しい出会いである赤ちゃんは、「もっと知りたい」という意欲で満ちあふれ、新しい情報を常に追い求める存在です。しかし、小学生、中学生になるにつれて、その意欲は変化します。図で示したとおり、3割の小学生、5割の中学生が「どうしてこんなことを勉強しなければならないのだろう」と感じています。勉強への意欲はなぜ変化していくのでしょうか。
ここでは2つの理由を示したいと思います。
第一に、小学校や中学校での勉強は、自分がやりたいと思ったものではなく「やれ」と言われて仕方なくやることがだんだん増えていくからです。昔も今もその状況は変わらないかもしれません。始めはやらされている勉強でも、やっているうちに面白くなればよいのですが、学校の授業のすべてがそうはいきません。
第二に、子ども自身が「したい」ことを思い切りする機会が大人になるにつれて減ってしまうからではないかと思います。「学び」は決して教科の勉強だけではありません。なぜだろう、不思議だなと感じ、その疑問を追究していく中で新しい発見をしていくこと自体が学びです。だから、子ども自身が「知りたい」と思ったことを追究する環境と時間が十分に確保されていれば、子どもは自然と学びに向かうはずです。
勉強する3つの理由
さて、勉強に疑問を持っている子どもに対して、学校の先生はどう答えているのでしょうか? ここでは3つの理由をご紹介します。
(1)「日常生活に役立つから」
小学校低学年~中学年の教科の内容は子どもの日常生活と密接に関わっています。たとえばお店屋さんで買い物をするときに、足し算・引き算が役に立つことを実感できます。そのため学校では、子どもたちの生活場面を活かして教科の内容を教える工夫をしています。しかし、小学校の高学年や中学生になり抽象度の高い教科内容になると、日常生活と教科の内容を結びつけることがだんだん難しくなってきます。
(2)「将来役に立つから」
小学校高学年以上では、今は役に立つかどうかがイメージできないかもしれませんが、将来必ず役に立つことを、教科の授業やキャリア教育などをとおして教えています。授業で知識を身に付けるだけでなく、「問題解決に必要な思考力や判断力」の育成にも力を入れています。そして、そうした力を付けることが、これからの社会で生きていくうえで大切であることも子どもたちに丁寧に伝えています。しかし、本当にその力が社会に出て役に立つものなのかを、すべての子どもが十分に理解できるわけではありません。
(3)「面白いから」
子どもたちをひきつける魅力的な授業が行われれば、子どもたちは(1)や(2)を理屈で考えなくても、主体的に授業の内容を「もっと知りたい」と思うはずです。学校の先生方は授業の専門家ですから、「どうしたら子どもが興味を持つ授業ができるのか」を常に考え、実践をしています。しかし、先生にとって、魅力的な授業を実践し続けることは、とてもハードルが高いのです。
子どもと一緒に答えを探そう
3つ理由を紹介しましたが、どれも1つだけでは不十分です。そして、この問いの答えを学校だけに任せるのではなく、ぜひ家庭でも一緒に考えてほしいと思います。
私はこの問いが子どもから出た時こそ、子どもと向き合ってたっぷり時間をかけて対話をしてほしいと思います。なぜなら、子ども自らが主体的に発した「問い」であるからです。ぜひ一緒に考え、答えを見つけてほしいと思います。その過程こそ「学び」の本質なのです。子どもが考えることが面白くなって、自らどんどん新しい問いを発するようになってくれば、しめたものです。
「なぜ、勉強するの?」あなたはどう考えますか?