中江有里さん(女優、脚本家、作家)が語る、「人生を豊かにする読書術」【後編】
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前編に引き続き、芸能界きっての読書家である中江有里さんに読書の効能について伺いました。今回は、読書が持つ豊かな可能性と、子どもを読書に導く環境の整え方について語っていただきます。
本を読んでどう感じるかは自由。それがいい
読書のいい点は、一人でできるところだと思います。親が働いていたこともあって、私は子どものころから割と一人でいることが多かったんですが、よく図書館に行きました。図書館は、常に静かで、一人でいてもまったく問題なくて、そこにいるととても楽だったんです。いわば、本は友達だったんですよ。
本というのは自分の外側の世界のものだけれども、それをどういうふうに取り入れるかは自分の力です。登場人物や景色がどうなっているかは、読み手がそれぞれ想像するしかありません。だから、ある一人の登場人物が何百通りもの存在になりうる。その豊かさがすばらしいと思います。私は映画も好きなんですが、あまりおかしくなくても、みんなが笑っているシーンでは一緒に笑わなければいけないようなプレッシャーを感じることがあります。でも、本は自分のペースで読めるし、感想を人と合わせる必要もありません。読んでいる時にどう感じるかは自由なんです。人の個性は、性格が明るい暗いなんて表面的なことではなく、本の読み方にこそ表れるんじゃないでしょうか。
空想の翼を大切にしてあげたい
私は子どものころから物語の中にどっぷりつかる感覚が好きで、夢中になりました。それに、空想が多い子どもだったので、「友達になった小人をこっそりポケットに入れて学校に行きたい」なんて想像している時に、とても幸せを感じていたんです。でも、そういうことを口に出すと、大人に「変なこと言わないで」と否定されることもわかっていました。物語の中はそういうファンタジーが肯定されている世界。自分の心の中の部屋みたいなもので、誰も侵入できない安全な場所なんです。子どもだって人間関係や勉強でストレスがたまるし、むしろ大人より逃げ場がないともいえますよね。私の場合、物語に浸ることはストレス解消に大きな効果がありました。
私が小学校高学年におすすめするなら……。いろいろあって迷いますが、『獣の奏者』『チョコレート工場の秘密』『怪盗紳士ルパン』がいいと思います。
「身近に本がある環境」を整える大切さ
私は子どもがいないので偉そうなことは申し上げられませんが、保護者のかたが、あまり本を読まないお子さんに読書の楽しさをわからせたいと思った時、大切なことが二つあると思います。一つは、環境を整えてあげること。もう一つは、娯楽を与えすぎないことです。
子どもは大人がやっていることをまねするもの。ですから、大人が本を読んでいる姿を見せてあげるのはいかがでしょう。また、子どもと一緒に書店や図書館に行くことを習慣にするのも大切なことです。そうやって、子どもの身近に当たり前に本がある環境を積極的につくってあげるのは、保護者がすべきことです。
子どもが求めるままにゲームやスマホなどの娯楽を与えすぎると、それらがおもしろければ没頭してしまうし、本を読む時間が減ってしまいます。たとえば病院の待合室では、他に娯楽がないので子どもたちはむさぼるように本を読んでいますよね。私が小さいころ、食事を食べたくないと言ったら、母親は用意した食事を食卓から下げてしまいました。夜になって、あまりにおなかがすいたので、「ごめんなさい」と謝って食事にありつきました。その時、あんなにまずいと思っていたサラダがものすごくおいしかったんです。自分から求めると受け取り方が違うんだと思います。
だから、本が身近にある環境を整えつつ、本以外の娯楽を保護者が見守ることが大切です。そうしないと、限られた時間の中でなかなか本に目を向けることかできません。厳しいように見えるかもしれないけれど、そうすることが必要だと思います。
『学びやぶっく 72 いくつ分かる? 名作のイントロ』 <明治書院/中江有里(著)/1,296円=税込> |
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