歴史嫌いの女子が、歴史好きになった!歴史マンガ『ねこねこ日本史』のヒミツ

  • 学習

「『ねこねこ日本史』を読んでからは、学校のテストで必ず80点以上取れるようになりました!」など、歴史好きの小中学生を続々と生み出している『ねこねこ日本史』。かわいくて学べる歴史マンガとして不動の人気を誇り、今年連載10周年を迎えました。

『ねこねこ日本史』を読むとなぜ歴史が好きになるのか? 歴史を楽しく勉強するには、どうすればいいのか? 作者のそにしけんじさん、歴史監修者の福田智弘さんにお聞きしました。

この記事のポイント

「『ねこねこ日本史』で歴史が好きになる」3つのヒミツ

1:一目でハートをわしづかみ! かわいらしく親しみやすいキャラクター

ーー『ねこねこ日本史』には、かわいいネコに扮したさまざまな歴史上の人物が登場し、多くのファンのハートをつかんでいます。親しみやすいキャラクターはどのように生み出されたのでしょうか?

そにしけんじさん(以下:そにし)
歴史ってなじみがなかったり、「覚えることがたくさんで嫌だな」と苦手意識が強かったりするお子さまも多いですよね。何とか歴史に親しみを持てるようにするにはどうしたらいいんだろう……と考えた時「ネコならかわいくなるんじゃないかな」と思ったんです。

ネコを思い付いたのは、ちょうど『猫ラーメン』というマンガを描いていたから。「登場人物が全員ネコの歴史マンガなんて誰も描いてないし、もしできたら面白くなるはずだぞ」とひらめいたのを覚えています。

©そにしけんじ/実業之日本社

初めにつくったキャラクターは卑弥呼です。当時の衣装や、卑弥呼にまつわるエピソードから時間をかけてキャラクターに落とし込んでいったところ、かわいいキャラができあがりました(上のイラスト参照)。キャラクターができると、ネタやギャグで命を吹き込んでいけるんですよね。争いを止めようとねこじゃらしの呪術を使ったりと、ネコ版卑弥呼が肉付けされていきました。

©そにしけんじ/実業之日本社

猫じゃらしを使った呪術で争いを止めようとする卑弥呼

キャラクターに親しみを持ってもらうためにも欠かせないギャグの要素は、史実に反しないギリギリの範囲で遊ぶというルールでやっています。邪馬台国の時代の争乱をギャグ満載のネコのケンカで表現できた時に「このレベルに歴史を落とし込めれば、かなりやさしくわかりやすいものをつくれるのでは」と手応えを感じました。

ちなみに、卑弥呼はキャラクターの人気ランキング(下図参照)でも2位にランクインしているんですよ。

『ねこねこ日本史』人気キャラクターランキング

ーー圧倒的な人気を誇る新選組のキャラクターは、どのように生み出されたのですか?

©そにしけんじ/実業之日本社

そにし
新選組は人物それぞれキャラクターがハッキリしているため、まずは、一人ひとり違う種類のネコに当てはめていきました。そのうえでキャラクター付けをするのですが、ポイントは人物の特徴を無理なくネコに置き換えること。無理のない自然なキャラ付けだと子どもも理解しやすく、入り込みやすいんですよね。

たとえば、美形だけど病弱で時々血を吐く沖田総司は、ネコだけに毛玉をよく吐くことにしました。沖田総司は思い切りかわいく遊べたキャラクターですね。そのためか、いちばん人気でグッズも最も売れていますし、ファンアートも多いんです。

©そにしけんじ/実業之日本社

いちばん人気の沖田総司。新選組一番隊隊長で高い実力を誇るものの、体が弱くよく毛玉を吐く。

ーー男女で人気のキャラクターの違いなどもあるのでしょうか?

そにし
女の子には、新選組や卑弥呼が人気ですね。よりかわいさが際立ったキャラクターが人気を集めているように感じます。
男の子は、真田幸村や伊達政宗など強い武将キャラに人気が集まる傾向が見られます。今マンガで描いている人物だけでなく、自分の好きな武将をマンガにしてほしいとのリクエストが届くこともあるんですよ。大友氏一族の重臣「立花宗茂(たちばなむねしげ)」などは男の子たちから多くのリクエストが届いたことがきっかけでマンガに登場した人物です。

2:知識がグングン頭に入る! かわいさだけじゃない、史実に基づいた本格的な描写

ーーかわいいキャラにキュンキュンしたり、ギャグに笑ったりしながらも、史実に基づいた本格的な内容で歴史入門できるのも人気の理由です。史実に忠実なマンガとするために、どのように制作されているのでしょうか?

そにし
1人の人物につき、4コマ×15本ですが、とにかく時間をかけてリサーチして、マンガに落とし込んでいます。制作の流れは次のとおりです。

1. 主人公になる人物を決める

2. 資料を集めて読み込む
ここがいちばん大変な工程です。担当編集者さんからドサッと届いた段ボール箱いっぱいの資料をひたすら読み込みます。専門的な書物も多く苦労しますが「この人物についてこんなに資料を読むのは一生に一度」と自分に言い聞かせながら読み込んでいます。

3. 歴史的事実を書き出す
資料から読み取った歴史的事実を書き出していきます。気を付けているのは、客観的に歴史的事実を押さえること。書き手の意向や主観的な解釈は排除して事実だけをとらえるようにしています。

4. キャラクターに落とし込む
史実やエピソードから、人物像を膨らませてネコのキャラクターに落とし込みます。メインのキャラクターだけでなく、周辺の人物もすべてネコキャラにしていきますが、子どもがまちがえて覚えてしまうことのないように人物名はギャグにしないことをマイルールとしています。

5. ネーム作成
ネームとは、コマ割りやセリフ、絵も含めたマンガの下書きのようなもの。ギャグもふんだんに入れていきますが、戦いや歴史的事象は史実のとおりに描くようにしています。

6. 編集担当者のチェック
マンガの主人公としてキャラクターが立っているか、ギャグが面白いかなどストーリー面のチェックが入ります。

7. 歴史監修者福田さんのチェック
史実と異なっていないかなど歴史研究家の福田智弘さんにチェックしていただきます(詳しくは後述)。

8. 修正→完成

これまでにもいろいろなマンガを描いてきましたが、こんなに時間のかかる作品はなかったのではと思うほどです。人生の中で今がいちばん本を読んでいますね。

ーーネームを描いた後、歴史監修の工程が入ります。監修はどのように行われているのでしょうか?

福田智弘さん(以下:福田)
史実がまちがっていないかのチェックはもちろんですが、ギャグのチェックは特に注意しています。そもそもギャグは創作で、面白さや親しみやすさを生み出す部分ですよね。そのため「沖田総司は毛玉を吐きません!」などと、なんでもかんでも「事実ではない」とNG出しするわけにはいきません。ギャグについては「史実と違いますがギャグだからいいですよね?」という疑問出しと、次のような基準を決めてのチェックの2つを心がけています。

<チェックの基準>

● OK:子どもが見てギャグだと
わかるもの

● 十七条憲法に「ソファーで爪を研がない」とある

● 織田信長はまたたびが大好き

● NG:子どもがまちがって覚える可能性があるもの

● そのシーンでは既に亡くなっているはずの人物が生きている描写

● 年代や名称などの歴史的事実

監修をしていて驚かされるのは、そにし先生は本当によく調べていらっしゃるということ。歴史書にもほとんど載っていないようなマニアックな事件についてまで押さえていらっしゃいます。個人的な解釈を踏まえず、客観的に史実を押さえているため、大人向けの本より本格的な内容が入っていることも少なくないんですよ。

そにし
福田先生の監修は、とても丁寧で細やかです。歴史的事実や時系列といった点だけでなく、コマの中に登場するちょっとした小道具についてまで目を配っていただいています。

たとえば「火縄銃の持ち方が逆」「お膳の形がこの時代のものとは違う」といった感じのチェックと共に「いったいどこから見つけてきたんだろう」と思うような資料を添えてくださっています。

福田
『ねこねこ日本史』は絵がゆるくてかわいいから中身もゆるいのかなというとぜんぜんそんなことはないんですよね。むしろ、とても本格的。ここまで丁寧に史実を調べ正確に描いているのは、マンガはおろか書籍にだって少ないのではないでしょうか。天草四郎を取り上げた回などは「どの本よりも史実に正確で詳しい」と歴史ファンがSNSで話題にしていたほどです。

3:残酷なシーンがなく怖くない

ーー歴史には合戦など残酷なシーンもつきものですが、『ねこねこ日本史』では目を背けたくなるような描写はありません。読者の子どもが怖がることなく読めるのも愛される理由かと思いますが、どのような点に気を配られていますか?

そにし
合戦もネコのケンカとして描くので、そもそも殺し合いまでには発展しないんですよね。とはいえ、ネコがかわいそうに見えないようには注意しています。ポイントは、ネコの特性を生かした合戦にすること。槍や刀でなくふわふわなねこじゃらしで戦ったり、鉄砲でなくまたたび砲で戦ったり、大きな音や水が苦手で逃げてしまったり……。そんなふうにネコの特性をふんだんに取り入れて描くと、合戦の生々しさより、かわいさが際立ってきます。

©そにしけんじ/実業之日本社

元寇(げんこう)で「てつはう(火薬を使った武器)」が使われたシーンを描いた4コマ。ネコは大きい音が苦手という特性を踏まえて逃げ出してしまったというオチに。

人物が亡くなることも悲しく見えないように工夫しています。よく使っているのが、亡くなった人物が昇天して幽霊として登場するという方法です。かわいい幽霊キャラができると、ギャグになるんですよね。菅原道真の幽霊キャラ(下の4コマ参照)が登場すると、たたりも怖すぎずポップな印象になりました。

©そにしけんじ/実業之日本社

覚えやすく忘れにくい! 歴史の勉強の楽しみ方

ーー歴史は「覚えることがたくさん」「人間関係が複雑で難しい」と苦手意識を持つ子どもも多くいます。おすすめの歴史の楽しみ方やアイデアを教えてください。

福田
何年に何が起こって……と無味乾燥な情報としてではなく、リアルなストーリーとしてとらえていくのがいいですね。その意味でも、マンガで学ぶのはおすすめです。

ストーリーとしてとらえると、人の生き様やドラマにワクワクしながら覚えていくことができるんですよね。ワクワク心を動かしながら覚えたものって、強く印象にも残るもの。覚えやすく、忘れにくくなるのではないでしょうか。

「織田信長が安土城を造った」という歴史的事実も、信長の強烈なキャラクターやドラマチックなエピソードの数々を知っているのと知らないのとでは、見えてくるものが違うはずです。

そにし
人物をキャラクター化してみるのもいいですね。一気に親しみがわいて、いきいきととらえられるようになります。

実際、私も歴史資料を読んでいる時、自分がマンガでつくったキャラクターの人物が出てくるとおかしくて仕方ないことがあるんですよ。「お、こいつ、絡んできたな」「あいつ、そういうヤツだからな〜」と知り合いみたいな距離感で思わずツッコミを入れることもあるほど。

マンガやイラストにまで落とし込まなくても、あだ名をつけたりするだけでもいいのではないでしょうか。

ーー歴史に興味を持ったり、親しんだりするには保護者のかたの関わりもポイントになります。保護者のかたはどのように関わっていけばいいのでしょうか。

そにし
一緒に楽しむ、一緒に面白がるというのが大切です。「読みなさい」「やりなさい」「覚えなさい」と言うより、親もついでに一緒に楽しんじゃうほうが互いにハッピーですよね。
あとは、お城を回ったり、博物館に甲冑(かっちゅう)や刀を見に行ったりとリアルなものに触れに行く機会を作ってあげるのもいいですね。実態をとらえられると、親しみもわいてくると思います。

福田
一緒に楽しむという意味では、お子さまと一緒に『ねこねこ日本史』を読むこともおすすめです。もし「え、子ども用のマンガですよね?」と思って読んでいないのであれば非常にもったいないです。かわいいふりして、史実に基づいた本格派ですよ。一緒に読んで、親子であれこれ会話をすることで、より理解を深めることもできるはずです。

『ねこねこ日本史』の今後の進化をチラ見せ!

ーー10周年を迎えた『ねこねこ日本史』。記念イベントや今後の展開についても教えてください。

そにし
現在、全国309店舗の書店で10周年を記念したフェアを開催中で、はずれなしの書店くじを実施しています(※くじがなくなり次第終了します)。くじは『ねこねこ日本史』シリーズの商品を1冊購入ごとに1枚進呈。くじに記載された商品を1つもらえるので、ぜひ参加してみてください。

ーー次回作についてはいかがでしょうか?

2024年2月発売予定の『ねこねこ日本史14巻』は「平安時代の女性」にフォーカスしています。お姫さまや歌人などさまざまな女性、ワイドショーもびっくりな数々の事件など盛りだくさんの内容なのでぜひ期待していてください。

まとめ & 実践 TIPS

かわいく、読みやすいのに本格派。史実の監修もしっかりしているため、キュンキュンしながら安心して歴史を学べる『ねこねこ日本史』。

「歴史に興味を持つきっかけがあるといいな」「歴史、ちょっとニガテみたい……」と思ったらぜひ、手に取ってくださいね。

『ねこねこ日本史』連載10周年記念 全国309店舗で書店くじ開催!
https://www.j-n.co.jp/columns/?article_id=678

プロフィール

そにしけんじ

1969 年札幌うまれ。筑波大学芸術専門学群視覚伝達デザインコース卒業。大学在学中に 『 週刊少年サンデー 』 (小学館)の漫画賞を受賞。おもな作品に 『 猫ピッチャー 』 (中央公論新社)など。
『 ねこねこ日本史 』(実業之日本社)は COMIC リュエル&ジャルダンでの連載が 2023 年に 10 周年を迎えた。

プロフィール

福田智弘

1965年埼玉県生まれ。1989年東京都立大学(現・首都大学東京)人文学部卒業。
主な著書にベストセラー『世界史もわかる日本史』(実業之日本社)『ビジネスに使える「文学の言葉」』(ダイヤモンド社)ほかがある。
『ねこねこ日本史』歴史監修及び『ねこねこ日本史でよくわかる 日本の歴史』等の学習本シリーズの執筆も担当。

  • 学習

子育て・教育Q&A