いじめなどでネットの人権侵害が増加 体罰問題も深刻に‐斎藤剛史‐

法務省のまとめによると、人権救済に当たる全国の法務局が2013(平成25)年中に被害者などからの申告を受けて調査に乗り出した事案の中で、「ネットいじめ」などインターネットを利用した人権侵犯は957件で過去最多となったことがわかりました。学校現場におけるいじめによる人権侵犯の事件も4,034件で過去最多でした。ネットというバーチャル、学校現場というリアルの双方において、いじめは大きな問題となっています。

全国の法務局では、人権侵犯の被害申告を受け付けており、人権侵犯が確認されると関係者への説示・勧告、関係機関への通告、警察への告発など人権救済の措置を取ることになっています。2013(平成25)年中に全国の法務局が人権救済のため調査に乗り出した事案のうち、「インターネットを利用した人権侵犯事件」は前年より286件(42.6%)増の957件で、これまで最多だった2009(同21)年の786件を上回り、過去最多となりました。内訳は、プライバシーの侵害が600件、名誉毀損(きそん)が342件などで、この二つで全体の98.4%を占めています。これがネットによる人権侵犯の特徴と言ってよいでしょう。具体的事例を見ると、「インターネット上の動画投稿サイトに、申告者の子どもが同級生からいじめを受けている様子を撮影した複数の動画が掲載され、精神的な苦痛を被っている」などがあり、法務局では動画サイトを運営するプロバイダーに動画の削除を要請しました。このように削除要請した事例は2013(平成25)年で136件に上っています。

もちろん、これらの事案がすべて子どもにかかわる「ネットいじめ」であるわけではありませんが、携帯電話やスマートフォンの普及によって、子どもたちの間で「ネットいじめ」が身近な危険となっていることは間違いないでしょう。2013(平成25)年9月に施行された「いじめ防止対策推進法」は、インターネットを通じていじめが行われた場合、被害者の子どもやその保護者は「当該いじめに係る情報の削除を求め、又は発信者情報の開示を請求」するために法務局の協力を求めることができると規定しています。法務省では、「ネットいじめ」などインターネットによる人権侵犯の事案の増加は、相談窓口として法務局の存在が認知されるようになったためと見ています。
一方、学校現場でのいじめによる人権侵犯事件は前年度比1.2%増の4,034件で、2013(平成25)年に続き2年連続で過去最多を更新しました。具体的事例では、学校が対応してくれないという母親の訴えを受けて、学校に協議の場を設けるよう要望・調整したケースが紹介されています。このほか、学校教員の体罰による人権侵犯事件は前年度比139.7%増の887件で、こちらも2年連続で過去最多となりました。具体的事例では、法務局が調査して体罰の事実を確認し、再発防止措置を校長に要請した例が挙げられています。

大津市の中学生いじめ自殺事件、大阪市立桜宮高校の体罰自殺事件などで、いじめや体罰に関する社会の関心が高まる中、法務局など人権救済機関の役割は今後、さらに大きくなりそうです。


プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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