しつけや教育に悩む現代の保護者 足りない育児体験や知識‐斎藤剛史

もうすぐ新年度、子どもたちは進学・進級して新たな学校生活がスタートします。子育てが次のステージに移る家庭も多いでしょう。国立教育政策研究所の調査(外部のPDFにリンク)によると、保護者の約8割が家庭での子どもの教育は「うまくいっている」と回答する一方で、社会全体の家庭の教育力については7割以上が低下していると批判しています。他人はともかく自分の家庭はうまくいっているというところでしょうか。しかし、調査結果を見ていくと、現在の保護者にも多くの課題がありそうです。

調査はインターネットをとおして実施し、乳幼児から高校生までの子どもを持つ保護者合計1,200人の回答を集計しました。社会全体の家庭の教育力が低下しているという見方について、73.8%が「そのとおりだと思う」と回答しています。その理由(複数回答)は、「過保護や甘やかしすぎ、過干渉」が87.3%、「子どものしつけや教育の仕方がわからない親の増加」が86.7%、「しつけや教育に自信を持てない親の増加」が77.8%など、厳しいものとなっています。一方、自分の家庭での子どもの教育がうまくいっているかを尋ねたところ、「だいたいうまくいっている」が60.6%、「うまくいっている」が17.2%で、合計すると保護者の77.8%が自分の子どもの教育はうまくいっていると思っているようです。
ところが、「自分の子どもに身に付いていない、足りないと思われるもの」(複数回答)を聞いたところ、「自分で課題を見つけ、考えることができる力や探究心」が26.2%、「将来設計を立て計画を実行していける力」が22.0%などでした。先に紹介したように過保護や過干渉を批判する保護者は多いのですが、自ら課題を見つけたり、計画を立てて実行したりするなど自立に関する力が自分の子どもに不足していると感じている保護者も実は少なくないことがうかがえます。

また、しつけや教育の仕方を知らないという批判が多いのに対して、保護者自身が親になる前の体験(同)を見ると、親戚や知人の小さな子どもの世話をした経験があるのは44.6%、弟や妹の世話をしたことがあるのは32.3%でした。子育てについて「親や親戚から教えてもらった」のは55.4%、「ガイドブックや本を読んだ」のは54.5%などで、同研究所は「(実際には)親の半数が育児の経験も学習も不足している」と指摘しています。
このほか、家庭教育に関する学習ニーズでは、「子どもの進路や就職、将来」が30.5%で最も多く、特に高校生を持つ保護者では40.0%となっています。社会が急激に変化する中で、自らの経験や知識が通用しないことを痛感している保護者が多いようです。これらのことから子育てに不安や悩みを感じている保護者は60.4%、女性だけだと69.7%にも上っています。

おおむね、自分の子育てはうまくいっていると実感しながらも、保護者自身の体験や学習の不足、戸惑い、情報や知識の不足からくる不安など、実はさまざまな悩みを抱えているというのが偽らざる姿のようです。


プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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