定員超過相次ぐ看護系学部 教育環境に課題指摘も-斎藤剛史-

最近新設された大学・学部などの中には、大幅な定員割れなどの問題があるところが少なくないことは、以前に当コーナーでもお伝えしました。しかし、新設の学部・学科が抱える課題は定員割れだけではないようです。というのも先に紹介した文科省の「設置計画履行状況等調査」(アフターケア)では、「定員超過」による教育環境の悪化なども指摘されているからです。少子化による学生獲得競争が激化している中で、定員超過で困っている大学・学部とはどんなところなのでしょうか。

それは看護師を養成するための看護系大学・学部です。従来、看護師の養成は、3年制の専門学校や短期大学などが主流を占めていました。現在でもその構図はあまり変わりませんが、文部科学省の資料によると、看護師養成の課程を持つ看護系大学は、1991(平成3)年度わずか11校だったものが、2010(同22)年度には188校にまで増えています。2000(平成12)年度からの10年間だけでも104校も増えた計算です。そして日本看護系大学協議会によると、2013(平成25)年度は217校の4年制大学が会員校になっています。
看護系大学・学部が急増した背景には、医療の高度化などに伴い日本看護協会が4年制大学を中心とする看護師養成の方針を打ち出したこと、医師と並んで看護師の不足が深刻化していることが挙げられます。しかし最大の要因は、主に女子の就職状況が厳しい中で、看護師は就職先に困らないということでしょう。また、看護師不足解消のため文科省が積極的に看護系大学・学部の新設を認めてきたという事情もあります。いわば、学生を集めたい大学と、就職先に困らない進路を求める学生のそれぞれのニーズが合致したのが、看護系大学・学部の急増の原因です。

ところが、急激な増加は弊害も生んでいるようです。新設大学・学部などを対象にした文科省のアフターケアによると、改善要請を受けた大学の中には、「開設以降、入学定員を大幅に超える学生を入学させており、教育環境の悪化が懸念される」などの指摘が看護学部や看護学科で目立ちます。志願者が多いことから、定員を超えて入学者を受け入れているようです。同時に、教員の離職率が高く教育課程が当初計画どおりに実施されていない、実習施設の確保に問題があるなどの指摘もあります。看護系大学・学部の急増とともに、専門分野の教員不足が大きな問題となっていると言われており、新設大学・学部などでは十分な教員を維持することができなかったことがうかがえます。また、看護師養成では医療や看護の現場での実習が大きなウエートを占めるため、実習先の確保も年々問題になりつつあるようです。

看護師不足を背景に、看護系大学・学部の人気は今後も続くことでしょう。その際、しっかりとした学校選びが、これからより重要になってきそうです。


プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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