子どものスポーツ障害を防ぐには?【前編】成長期の体とスポーツ障害

近年、「運動する子ども」と「運動しない子ども」の二極化が進んでいるといわれています。運動しない子どもが、将来の生活習慣病の予備軍となる一方で、長時間ハードな運動を続けている子どもたちの間では、スポーツ障害や燃え尽き症候群などが問題となってきています。長年、スポーツドクターとして治療に当たってこられたこやまクリニック院長の小山郁先生に、スポーツ障害を防ぐために知っておきたい、成長期の子どもの体の特徴について伺いました。



「大人の事情」でスポーツの楽しみを奪わないために

日本人の多くが都市部に住む現代では、野山を走ったり、木に登ったり、海や川に飛び込んだりと、日常生活の中で体を動かして遊ぶ子どもの姿は、ほとんど見られなくなりました。学校のクラブ活動や習い事としてのスポーツが、外遊びのかわりになったともいえます。しかし、現場で治療に当たっていると、子どものスポーツにはまだ「遊び」からほど遠い状況があるように思います。
運動する楽しさを、じっくりと伝えようとしている、優れた指導者はたくさんいます。一方で、少子化の折、学校やスポーツクラブは、よい生徒や選手を確保するため、指導者に試合で実績を上げることを強く要求しがち。その結果、一握りのスター候補に過度な負担がかかり、過密スケジュールで故障するケースが数多くあります。また、「勉強がダメなのでスポーツをがんばらせたい」「試合で結果を出さないと推薦がもらえない」といった理由で、子どもに「実績」を期待する保護者も見受けられます。
こうした大人の事情で、子どもから体を動かす楽しみを奪わないために、まずは子どもの体の特性を知っておくことが大切です。



成長期の子どもの体を知る

・成長期ゆえの弱点
子どもの骨には「成長軟骨」と呼ばれる、骨が成長するための部分があります。文字通り、「軟らかな骨」の部分であり、ここに過剰なストレスが加わり続けると、成長障害や、変形などの後遺症を残すことがあります。また、骨の伸びる速度に周囲の筋肉や神経の成長が追い付かないため、一時的に柔軟性が低下し、障害を起こしやすくなることがあります。これらは成長期ゆえの、大人にはない弱点です。

・同学年でも、約5年分の成長差あり
成長には個人差が大きく、発育の早い子と遅い子の間には5年ほどの差があります。指導者が目の前の勝利を求めて早熟な子どもに頼った場合、その子の心身に過度の負担がかかる可能性があります。一方、晩熟型の子にとっては、同学年の子と同じ練習がストレスとなることも。がんばっても試合に出られないため、やる気をなくしてしまうこともあるでしょう。



成長差を見据えた運動が故障を防ぐ

スポーツ障害を防ぐには、各発達段階に適した練習メニューを組む必要があります。保護者は子どもの成長を長い目で見守るとともに、成長差を見据えてじっくり教えてくれる指導者を選ぶことが大切です。

・4、5歳~10歳(ゴールデンエージ)
脳神経系は、4、5歳までに成人の80%程度、10歳ごろまでに90%に達し、動きのたくみさ(巧緻<こうち>性)やバランス感覚、リズム感も発達するといわれています。そのため、この時期は「ゴールデンエージ」と呼ばれ、さまざまな動きを体験させることが効果的です。一方、まだ骨が軟らかいこの時期、同じような負荷が繰り返しかかる運動は避けましょう。
多くの子どもは、次から次へ、さまざまな遊びをしたがりますが、これは脳の発達にも、スポーツ障害予防のためにもよいことです。もしかしたら「子どもの飽きっぽさは神様の配慮」なのかもしれません。

・身長が急激に伸びる時期
身長が年に数センチもすくすくと伸びる時期には、肺や心臓も成長しているため、心肺能力を向上させるような全身持久力のトレーニングが適しています。この時期の到来には、大きな個人差があります。

・身長の伸びが止まる時期
身長の伸びが年に1センチ以下となり、骨端(こったん)軟骨が閉鎖する時期からは、筋力トレーニングが効果的となります。
なお、幼少期ほど急激な伸びではありませんが、巧緻性は少しずつ向上しますので、あきらめずに練習を続けることが大切です。

次回は、スポーツ障害の予防と早期発見のため、保護者ができることについて引き続き小山先生に伺います。


プロフィール


小山郁

都立府中病院、講道館ビルクリニック院長を経てこやまクリニック院長。全日本柔道連盟医科学委員、日本体育協会認定スポーツドクター、オリンピック強化スタッフとして柔道の国際大会等に帯同。極真空手、プロボクシング等でリングドクターも務める。

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