高校早期卒業の「成績優秀者」とは?

高校2年生から大学へ進学できる「早期卒業制度」を文部科学省が創設する予定であることは、当コーナーでお伝えしました。マスコミの報道では、現行の「飛び入学」制度が高校中退扱いになるため利用者が増えない問題を解決するための措置だと説明されています。しかし、中央教育審議会の資料によると、現行の「飛び入学」とはまったく違う制度になる可能性があることがわかってきました。

現行の飛び入学は、物理や数学など特定の分野で飛び抜けた才能がある人を対象としています。早くから大学教育を受けさせて学問に専念させると同時に、特別な才能がある生徒は主要教科の合計点を争う一般の入試ではどうしても不利になるため、それを救済するというねらいもありました。
また、「飛び入学」制度が創設された1997(平成9)年当時はエリート教育批判が根強く残っており、いわゆる成績優秀な「受験エリート」を大学に飛び入学させることに強い反対があったことも、飛び抜けた才能に限った大きな理由でした。
このため今回、文科省が打ち出した早期卒業制度でも、特別な才能を持つ子どもが対象になるのではないか、というのが大方の受け止め方でした。

しかし平野博文・文科相が政府の国家戦略会議に提出した報告(外部のPDFにリンク)には、早期卒業制度が「六三三制の柔軟化」の一環として位置付けられており、現行よりも対象が拡大する可能性が含まれていました。その後、中教審の高校教育部会がまとめた論点(外部のPDFにリンク)では「単位制をより重視することにより… … 厳格な成績評価の下で通常の生徒よりも優れた成績で単位を修得した者について、早期の卒業を認める制度の創設」が検討課題とされました。これは明らかに、特別な才能のある子どもではなく、いわゆる成績優秀者のことを示しています。
教育関係者の間では、中学校→高校という一般的なルートでは、単位数の関係から高校2年生での早期卒業は実質的に難しく、中高一貫教育校において5年間でほぼすべてのカリキュラムを修得した者が主な対象になるのではないか、という見方もあります。
仮に中高一貫教育校の成績優秀者が早期卒業制度の主要対象になるとすれば、現行の飛び入学とは大きく異なり、制度創設時に批判されたエリート教育になりかねません。もちろん、進学に力を入れた公立中高一貫教育校の人気が高まるなど、時代の変化の中で、いわゆるエリート教育に対する社会の受け止め方も変わりつつあります。

ただ、現行の「飛び入学」と明らかに異なる制度を目指しているとするならば、今後「通常の生徒よりも優れた成績で単位を修得した者」にまで「飛び入学」の範囲を拡大することを国民に明らかにしたうえで、その是非をきちんと社会全体で論議すべきではないでしょうか。


プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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