「反動ストレッチ」と「静的ストレッチ」~正しいウオーミングアップでケガを防ごう

ようやく暑さも遠のいて、スポーツや運動に適した季節がやってきました。適度な運動は身体の発育だけでなく、脳の発達も促します。たくさん食べて運動をして、お子さんの身体と脳のさらなる成長を促していただきたいと思います。
さて、幼児期から小学校高学年(10歳くらい)までの≪ゴールデンエージ≫には、筋肉系の運動より、身体の巧みさを身につける運動が適していることは、これまで繰り返しお話ししてきました。具体的には、球技や縄跳び、器械体操が代表的なものです。公園で手軽にできる運動としては、鬼ごっこや馬とびなどもよいでしょう。
ただし、ここで気をつけなければいけないのはケガです。特にこれから寒い季節に向かっていく時期には、筋肉が活動しにくい状態にあるので、急に運動を始めると、ねんざや転倒などを起こしやすいのです。一般的にゴールデンエージのお子さんは、いきなり全力で遊び始める傾向が強いようです。ケガの可能性をできる限り低くするためにも、この年代からウオーミングアップをする癖をつけることをおすすめします。



ケガを防ぎ、運動効果を上げる「反動ストレッチ」

それでは、運動前にはどのようなウオーミングアップを行えばよいのでしょうか? 大切なのは、「身体を温め、筋肉を伸び縮みさせておくこと」と覚えてください。具体的には、最初に軽くジョギングをします。身体が温まったことを自覚できたら、次に体操をします。基本的に、ラジオ体操と同じ体操でOKです。上半身と下半身をまんべんなく動かしてください。そして次に行ってほしいのが、「反動ストレッチ」と呼ばれるストレッチです。これは簡単にいうと、筋肉をゆっくり伸ばしていくのではなく、勢いをつけて瞬間的に伸ばすストレッチです。アキレス腱を伸ばす場合は、素早く「キュッキュッ」と軽く力を入れて10回程度行いましょう。続いて ≪直立した状態から両脚を伸ばして上半身を折っていく≫、 ≪直立した状態から脚を左右に開いて上半身を地面に近づける≫ 、≪立ったまま、片脚を上に振り上げる(左右交互に)≫ 、などそれぞれ10回程度行いましょう。無理に勢いをつける必要はありません。あくまで身体に無理がないように、軽く勢いをつけてください。

この「反動ストレッチ」がなぜウオーミングアップに良いのでしょうか? 人間の筋肉は、瞬間的に伸ばされると、それに対する反射で、すぐに縮もうとする作用が働きます。これを伸張反射と言います。つまり、ゆっくり伸ばすと、筋肉は伸びっ放しになってしまいますが、素早く伸ばすと、筋肉が瞬間的に伸びたあとに反射ですぐに縮むのです。この「反動ストレッチ」を行うと、筋肉の伸び縮み双方の準備ができて、しかもさまざまな筋肉の温度をピンポイントで高めることもできます。ダイナミックな運動は筋肉の伸び縮みの連続です。従って、「反動ストレッチ」は運動前の身体の準備に適しているのです。



運動後は、「静的ストレッチ」でクーリングダウンを

ウオーミングアップをしっかりしていれば、かなりケガの可能性は軽減できると思いますが、もうひとつ大切なのは、運動後のケアです。筋肉に疲れが残っていると、その後の日常生活にも影響してくることもあります。意外に運動後のケアは見過ごされがちなのですが、これもしっかり行いましょう。
きつい運動(あるいは夢中になった遊び)が終わったら、クーリングダウンを行います。クーリングダウンは、軽くジョギングをして、その後に「静的ストレッチ」を行います。「静的ストレッチ」とは、時間をかけてゆっくりと筋肉を伸ばしていくストレッチです。たとえば、両脚を伸ばして座り、上半身をゆっくり脚に向けて下げていくストレッチ。これは、太ももの裏を伸ばす効果があります。さらに立ったままで脚を前後に開き、両手を前の壁について、ゆっくりアキレス腱を伸ばすストレッチなどはよく知られていますね。
実はこれらの「ゆっくり時間をかけて筋肉を伸ばすストレッチ」は、運動前に行うと、筋肉が伸びてしまうために、筋肉の反発力がなくなってしまい、運動のパフォーマンスを落としてしまうことがわかっています。また、ジョギングでせっかく温めた身体を、静かにストレッチすることで、冷やしてしまうというマイナス効果もあるので、「静的ストレッチ」は運動後に行うようにしてください。

今、例として挙げたほかに、≪両脚をそろえての前屈≫、≪両脚を開いての前屈≫をゆっくりと、筋肉を伸ばした状態を20秒程度保つようにしてください。こうすることで、運動後に収縮している筋肉の回復が早くなり、筋肉の疲労を早くとることができます。クーリングダウンをする時間がなく家に帰ってきたら、少し休んでからお風呂にゆったり入り、その後に静的ストレッチを行いましょう。風呂は、疲れた身体を温めて血液の循環を良くするという効果があります。

「運動で疲れてしまうと、勉強に影響が出てしまう」。特に受験を控えているお子さんを持つ保護者の方々は、そうした先入観を持ってしまいがちです。しかし、正しいウオーミングアップと運動後のケアを行えば、ケガを防ぎ疲労も回復し、体調を整えて風邪などを引かない体力をつけることができます。生活のリズムに適度な運動を組み入れれば、短い時間で勉強に集中するという効果も出てくるはずです。
ぜひ、スポーツの秋に、お子さんにウオーミングアップとクーリングダウンを含めた適度な運動をすすめてほしいと思います。


プロフィール


深代千之

東京大学大学院 総合文化研究科 教授。(社)日本体育学会理事、日本バイオメカニクス学会理事長、日本陸上競技連盟元科学委員。文部科学省の冊子や保健体育教科書の作成にも関わる。*主な著書:「運動会で1番になる方法」「運脳神経のつくり方」など

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