新学期すぐのクラス替え、なぜ!? 教育界の「5月1日」

新学期がスタートしてわずか1か月しかたたないにもかかわらず、東京都内の公立小学校で、大幅なクラス替えが行われました。直接の原因は、小学1年生の学級定員を40人から35人に引き下げる法律の改正案の成立が4月15日にずれ込んだためという、特別な事情によるものです。ただし、これまでにも、新年度早々にクラス替えが起こる例は、しばしばありました。教員の数が、新年度当初の学級編制とは別に、「5月1日」の児童・生徒数の状況によって算定されるという、教育界独特の仕組みがあるからです。

文部科学省は、今春から公立小学校の1年生を「35人学級」にする予算を計上していました。大半の道府県では、年度当初から小1を35人学級で編制していたため、大きな混乱はありませんでした。しかし東京都教育委員会は、与野党逆転による「ねじれ国会」で、学級定員引き下げの根拠となる法案が成立しない場合を心配して、従来通りの定員で小1の学級編制をするという慎重な姿勢を取りました。そのため、法案成立後の新年度早々、公立小学校の75学級でクラス替えが行われるという事態を招いてしまったのです。
結果的には東京都教委の判断ミスとも言えますが、実は、同教委が慎重な姿勢を取ったのも、仕方ない面があります。公立小・中学校教員の人件費は、国が3分の1、都道府県が3分の2を負担するのが原則で、実際には地方負担分も、国からの地方交付税で賄われています。ところが東京都は、都道府県の中で唯一、国からの地方交付税がない「富裕団体」のため、法律で定められた数を超過した分の教員の人件費は、実質的にすべて独自負担となります。そのため、「万が一、法案が通らなかったら……」と、慎重な姿勢を取らざるを得なかったようです。

今回の東京都の場合は例外としても、新年度早々にクラス替えがあるというケースは、これまでもありました。それは、法律によって、学校ごとの教員の数が「5月1日」の学級数で算定される仕組みになっているからです。たとえば、小2以上の学級定員は40人ですが、4月中に転校などがあって、子どもの数が41人になれば、2クラスに分割され、当然、担任する教員が1人増えます。逆に、4月中に子どもの数が41人から40人になれば、2クラスから1クラスに減り、教員も1人減るというわけです。このように学校現場において、「5月1日」というのが特別な意味を持っているのです。

ただ、今後は、そうした新年度早々のクラス替えは減るのではないかとも指摘されています。新しく成立した改正義務標準法によって、学級定員が、これまでの「従うべき基準」から、「標準」へと位置付けが緩和され、市町村教委の判断で弾力的な学級編制ができるようになったからです。4月中に子どもの数が40人から41人になっても、2クラスに分割せずに、副担任などの形で教員だけ増やすことができるようになりました。今後いっそう、市町村により、さまざまな学級定員の形が取られることになりそうです。


プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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