逆上がりは「できなくていい」?運動能力低下のなかで

ちょうど体育の日、「子どもの運動能力、低下が鈍る」「下げ止まり?」などのタイトルで、一斉にニュースが流されました。文部科学省の「平成18年度体力・運動能力調査」(5月から10月に実施、6歳から79歳の男女7万1,200人が回答)の結果を伝えるものです。
ご家庭でも話題になりましたか? このタイトルだけだと朗報なのですが、一方で「運動少ない生活定着」「危機的レベル」という見出しも掲げられました。つまり、子どもの体力はもう下がるところまで下がってしまった、というわけです。ちょっと心配ですね。

この調査は毎年度実施されてきましたから、長年の傾向もわかります。運動能力全般のピークは1986(昭和61)年、20年前でした。このあと、体格の向上とは反比例して、おおよそ右肩下がりに低下し、10年ほど前からは低い値のまま横ばいで推移してきました。
運動能力の低下を示す具体例の一つに、鉄棒の「逆上がり」があります。逆上がりを成功させる下地は、うんていにぶら下がったり、ジャングルジムに登ったりして、遊びのなかで筋力やバランス感覚を培っておくことなのですが、「できる子が少ない」と小学校の先生が嘆く声を耳にします。
その逆上がりの「地位」が近年、低下しています。「できなくてもいい」と口にする子どもが増え、同じように考える保護者も少なくないようです。運動能力の低下が懸念されるなか、「逆上がりができなくてもいい」というのは、世相を反映する象徴的な話ではないでしょうか。しかし、逆上がりは前頭葉の働きを活発にし、注意力や抑制力も高めるなどとした、研究者の指摘もあります。

それ以上に、「逆上がりは地味ですが、子どもの人生で最初に、努力と達成感を味わわせるものです」という小学校の先生の言葉に、耳を傾けたいと思います。逆上がりの指導で知られるその小学校を訪れたとき、達成感を味わった子どもたち、もしくは味わおうとする子どもたちは、休み時間や放課後に、逆上がりの練習に夢中になっていました。遊びとして、楽しみながら頭をひねりながらの逆上がりでした。

現在、改訂が検討されている次期の学習指導要領では、こうした子どもの運動能力低下の状況を憂慮して、体育の授業時間数を増やすことを決めています。現在、小学校であれば体育の授業時数は年間90時間(小1のみ102時間)で、実は以前の105時間から減らしていたのですが、それをまた増やすことになったのです。しかし、体育の授業時数が少し増えたところで、できることは限られています。授業は、運動のきっかけづくりの場と言ってもよいでしょう。運動能力を向上させる量の確保は、授業の外です。

先の小学校では、「入学するまで鉄棒にぶら下がったことのない子もいる」とも聞きました。単にぶら下がるだけといっても、子どもには大切な運動です。
私たち大人も一緒になって、子どもと鉄棒にぶら下がってみませんか。


<参考>
20年前との比較図表
統計数値表

プロフィール



1966年神奈川県生まれ。中央大学卒。「教育新聞」記者として文部省をはじめ教育行政の取材を担当。1998年よりフリー。国際ジャーナリスト、カメラマンとしても活躍。共編著に「子ども虐待 教師のための手引き」(時事通信社)他。

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