ひらがなと数、「力を伸ばす」具体的な方法とは?【後編】
前編では、ひらがなも数も、生活や遊びを通し、子どもの興味に沿う形で教えるのがよい方法であることを説明しました。ひらがなや数の力を伸ばす際に保護者が心がけておきたいポイントについて、引き続き、文京学院大学大学院の平山許江先生が解説します。
文字に対する興味の芽生えを見逃さないで!
それでは、どのように子どもの興味に沿って学ばせるとよいのでしょうか。まずひらがなについてご説明します。
文字が読めるようになるためには、たくさん聞くことが不可欠です。これについては、親子の会話や絵本の読み聞かせも大切ですが、現代はテレビなどからも大量の言葉が耳に入るため、極端に不足している子どもは少ないと考えてよいでしょう。
絵本の読み聞かせをするとき、子どもは親が文字を見ながら話していることに気づきます。また保護者が本や新聞を読む姿から、そこに何かが書かれていることを感じ取ります。こうして文字に対する興味が芽生えます。
自分の好きな絵本を丸暗記してしまう子どもも少なくありません。そして親が読み飛ばしたり、間違えたりすると、すかさず指摘します。「ぼくが読んであげる」などと言って暗唱をする子どももいます。
そのように普段からひらがなに親しむうちに、しだいに「これは何て書いてあるの?」といった質問が増えてくるでしょう。そういう機会をとらえ、少しずつ、ひらがなを教えていきます。中には「子どもは気ままに遊ばせておくべき」といった考えから、子どもが知りたがっても、「小学校で習うよ」と言って教えようとしない保護者もいます。せっかく興味をもったのに、これは非常にもったいないことです。
ひらがなが読めるようになると、自然と書きたいという欲求が生まれます。本人が「教えてほしい」と言ったら、教えてあげるとよいでしょう。ただし、読むことに比べて書くことはルールが多くて難しく、おかしな形の文字を書くことも多いはず。しかし、あくまでも「勉強」ではありませんから、きっちりと修正する必要はなく、子どもが知りたがる範囲で教えましょう。興味はもっているのですから、小学校に入ったらすぐに克服できます。
算数的思考力の土台は生活や遊びの中で自然と育つ
一方、数は、簡単なようで、なかなか難しい学びのテーマです。3歳くらいになると1から10まで、就学前には100まで言えるようになる子どもは珍しくありません。しかし、実際は数の概念を理解しているわけではなく、単に順番に言えるだけの場合がほとんどです。
小学校以降の学びにつながる数の概念は算数的な思考力が必要となり、その土台は生活や遊びの中で育ちます。例えば、お出かけの前には、トイレに行って、帽子を被って、バッグを持って、靴を履くといった習慣を通し、しだいに「順番」の概念が身についていきます。また、スーパーで野菜や魚、肉などがそれぞれまとめて置かれていることは、「仲間分け」の考え方に通じます。一つひとつ例を挙げると切りがありませんし、そもそも生活の中ではあまり意識する必要はないでしょう。大雑把な言い方ですが、「生活や遊びを通し、子どもが一人で生きていけるような力を育てること」を意識していれば、自然と身につくと考えてかまいません。
さらに生活や遊びの中で数を意識させると、数の概念を理解しやすくなるでしょう。数を学ばせるためにおはじきを数えさせてもあまり興味をもちませんが、家族の人数分、おいしいお菓子を分けるようにお願いしたら必死で数えようとします。またお風呂につかるときやブランコの回数を数えるときなど、子どもがわかりやすいよう数えてあげると、数への意識が強まります。
数え方を教える際に苦労するのが、「一人」「一個」「一匹」などの「助数詞」です。こればかりは覚えるしかありませんので、実際に使う場面で教えましょう。
「勉強」ではないので、間違いを細かく指摘しないで
文字や数を教える際に心がけていただきたいのは、間違いを細かく指摘しないことです。子どもが歌の歌詞を間違えたり、音程が狂ったりしても、歌うのを止めて指摘することはあまりしないでしょう。ところが、文字や数となると、例えば、「1、2、3、5……」と数えたような場合に、すかさず修正することが少なくありません。これは、保護者の中に「勉強」という意識があるからでしょう。子どもからすると、せっかく覚えたことを教えてほめてほしかったのに出鼻をくじかれたような気持ちになって、興味が薄れてしまいかねません。子どもができたことを認めてあげたうえで、「あそこはちょっと違うかも」「ママならこう言うかも」などと、控えめに教える程度でよいと思います。
子どもが興味をもって学ぶ姿を見ると、本来、勉強とは楽しいものなんだと改めて感じさせられます。できなかったことができるようになる、知らなかったことを知る。そういう喜びを感じられる機会をたくさん与えて、一緒に感動してあげてください。この時期、できることの「量」だけに目を向けず、学びの楽しさを実感させるサポートを積み重ねることで小学校以降の成長につながるはずです。