教育用語解説|非認知能力 教育用語解説|非認知能力

2023.2.1

非認知能力はなぜ重要?教育現場での取り組みや家庭での伸ばし方を解説

近年、世界の教育現場で重視されているのが「非認知能力」の育成です。非認知能力とは人間が大切にすべき複数の力をまとめた概念で、最近ではその中の1つである「グリット(grit:やり抜く力)」が、社会で活躍できる人の共通点の1つであるという米国の研究発表をきっかけに話題を呼びました。非認知能力とは、具体的にどのような力で、どのように伸ばすことができるのでしょうか。

非認知能力とは?

人間の能力は、大きく「認知能力」と「非認知能力」の2種類に分けられます。「認知能力」とは、テストの点数や偏差値、知能指数などといった数値で表せる力のことで、「非認知能力」とは、数値では表せないけれども、これからの時代を生きるために、また、幸せな人生を切りひらくために必要な能力のことです。例えば、「目標を決めて取り組む」「意欲や興味を持つ」「新しい発想をする」「周りの人と円滑なコミュニケーションをとる」といった力のことで、子どもが人生を豊かにする上でとても大切な能力です。

非認知能力には数多くの種類がある

非認知能力とはこれ!という共通の決まった定義は存在せず、国や研究者などによって異なる見解が示されています。その中で、国内で比較的有名で整理されているものとして、以下の15種類が挙げられます。

・誠実性……課題にしっかりと取り組むパーソナリティ
・グリット……困難な目標への情熱と粘り強さ
・自己制御・自己コントロール……目標の達成に向けて自分を律する力
・好奇心……新たな知識や経験を探究する原動力
・批判的思考……情報を適切に読み解き活用する思考力
・楽観性……将来をポジティブにみて柔軟に対処する能力
・時間的展望……過去・現在・未来を関連づけて捉えるスキル
・情動知能……情動(自分の気持ち)を賢く活用する力
・感情調整……感情にうまく対処する能力
・共感性……他者の気持ちを共有し、理解する心理特性(こころもち)
・自尊感情……自分自身を価値ある存在だと思う心
・セルフ・コンパッション……自分自身を受け入れて優しい気持ちを向ける力
・マインドフルネス……「今ここ」に注意を向けて受け入れる力
・レジリエンス……逆境をしなやかに生き延びる力
・エゴ・レジリエンス……日常生活のストレスに柔軟に対応する力

※ 出典:小塩真司「非認知能力: 概念・測定と教育の可能性」(北大路書房)

上記の通り、非認知能力は、自分や他者の感情に関する受け止め方やコントロールに関する領域が多く取り上げられていることが特徴です。

非認知能力はなぜ重要?

生きるために必要な学力は獲得しておく必要がありますから、そのために必要な認知能力を身につけるために、非認知能力が必要になります。また、超高齢化社会が到来し、これからは学生時代に獲得した知識やスキルだけで一生を過ごすことが難しくなります。そのため、何歳になっても、自分が大切だと思うことを探して、目標をもって学び続ける必要があるのですが、そのために必要なのが非認知能力です。

一方、社会的な地位や名声、お金を手に入れることだけにとらわれず、一個人として、または家庭内でも幸せに生きるためには、目に見える学力だけでは不十分です。幸せを感じ取ろうとする気の持ちようや工夫、周囲のことも考えながら自分自身も大切にする姿勢こそが、今後ますます重要になっていきます。それらは、まさに非認知能力そのものなのです。

非認知能力を育てる、教育現場での取り組み実例

学校でも、非認知能力の育成に向けた取り組みが行われています。かつては、厳しい練習に明け暮れる部活動や、過酷な状況での特別活動などが多くの学校で行われていました。現在は、そうした活動が減る代わりに、非認知能力を意図的に育成しようとする動きが見られます。例えば、ある高校では、共感的なコミュニケーション力を高める活動を取り入れています。生徒が車座になってあるテーマに関する自分の気持ちや考えを発表し合い、聞き手はすぐに否定せずに聴くことを大切にします。その後、皆で語り合い、互いの理解を深めるというロールプレイによって、他者を受け入れる心や、豊かな感情表現の育成を目指しています。また、他人の立場に立って物事を考え、多角的なものの見方・考え方を育成するために、演劇教育を取り入れる学校もあります。

非認知能力は家庭でこう伸ばそう

非認知能力アップにつながる特定の習い事やスポーツはなく、どのような習い事や体験であれ、それにどう向き合い取り組むかがポイントです。例えば、世界で活躍するスポーツ選手のインタビューを聞くと、とても知的で魅力的に感じませんか。それは、彼らが厳しい練習や数々の経験を通して、自分の置かれた状況を客観的に理解し、自分を高めるための努力や工夫を積み重ねているからです。そこにはスポーツの種類は関係ありません。同じような考え方で、子どもが目の前のことに対してこつこつがんばる力を付けることができる機会をつくりましょう。

また、ふだんの会話の中で、子どもの話を単に聞くだけでなく、「どのような理由でそう思うようになったの?」などと、子ども自身が自分の考えや思いを整理し深める手助けをすることや、地域コミュニティーなど学校以外の人とかかわる機会をつくり、さまざまな価値観やバックグラウンドを持つ方と触れ合うことなども、非認知能力の向上に効果的です。

大人も非認知能力を伸ばせる

非認知能力は、子どもの時期だけでなく一生をかけて伸ばすことができます。むしろ、ストレスを抱えながら日々を過ごす大人こそ、非認知能力を高める必要があるかもしれません。グローバル化、多様化が進む社会の中で、子どもも大人も、自分と他者の感情にきちんと向き合って互いを大切にする姿勢を、さらに大事にしたいものです。

取材・執筆:神田有希子

※掲載されている内容は2023年2月時点の情報です。

監修者

監修スペシャリスト

小村 俊平こむら しゅんぺい


ベネッセ教育総合研究所
教育イノベーションセンター長

1975年東京生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。全国の自治体・学校とともに、次世代の学びの実践と研究を推進。全国の教員や中高生とのオンライン対話会を毎週開催しており、学校や家庭の学びの変化や先進事例に詳しい。
これまでにさまざまな自治体・大学・高専のアドバイザー、複数の学校設立に携わるなど初等中等教育から高等教育まで幅広く活動する。また、OECDシュライヒャー教育局長の書籍翻訳等の経験があり、国際的な教育動向にも詳しい。
活動実績一覧
他に岡山大学 学長特別補佐(教育担当)、日本STEM教育学会幹事、 日本教育情報化振興会理事、内閣府子ども・若者調査委員、信州WWLコンソーシアム座長、仙台第三高校スーパーサイエンスハイスクール運営指導委員等を兼任。

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