自分で考え行動できる子が持つ俯瞰力とは?家庭でできるコーチングを用いた伸ばし方も紹介
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俯瞰(ふかん)力という言葉をご存じでしょうか? ビジネスの世界では本質をとらえることのできる力として注目されていますが、実は子どもの勉強や受験、人間関係構築などにも役立つのです。
俯瞰力とはどのようなものか、その重要性から伸ばし方まで、コーチングのプロである石川尚子先生に伺いました。
子どもが持つとよい「俯瞰力」とは?
俯瞰力とは、視座を高めて物事や事態、思考をとらえ、全体を眺める力のことです。目の前にある一部分だけを見たり、感情に左右されたりせずに、客観的に全体像をとらえる力ともいえるでしょう。
イメージしづらい場合は、視点を変えてとらえる力と考えてみてください。見る角度を変えることで、見える範囲が広がり、狭い視点では気付かなかったことにも気付くことができるようになることがイメージできるのではないでしょうか。
視点を変えるためには、次の3つのポイントに注目して物事や事態を眺めてみることが役立ちます。
1. 対人軸を変える:自分視点から他人の視点で眺めてみましょう。 2. 時間軸を変える:今目の前のことを見るだけでなく、過去からの流れや未来への影響を考えてみましょう。 3. 前提を外す:思考を狭める条件や制約を外し、ゼロベースでとらえてみましょう。
これらの3つのポイントを意識することで、視野が広がり、俯瞰力を高めていくことができます。
俯瞰力の重要性とは?どんな時に役立つ?
俯瞰力を高め、全体を的確にとらえられるようになると、あらゆる面で適切な判断・行動がとりやすくなります。一方で、俯瞰力がないと、視野が狭まり自分本位でしかとらえられず、感情的な対処に陥りがち。状況を正しく理解できないため、課題解決がしづらくなってしまいます。
俯瞰力が発揮されると、行動面、感情面、人間関係面でどのような効果があるのかを紹介します。
■行動面
課題を解決に導く力が高まります。俯瞰力があると、状況の全体像を正確につかみ、課題の本質を見抜けるようになるためです。課題の本質をつかんでいるからこそ、解決に向けた計画や、状況に応じた臨機応変な対応がとれるようになるでしょう。
■感情面
一時の感情に流されて短絡的な行動をとることが少なくなります。俯瞰力があると、自分自身の感情さえも客観的に整理・分析できるようになるためです。「あ、今の私はイライラしているから、もう少し時間がたって落ち着いてから考えたほうがいいな」というように、自分の感情とうまく付き合えるようになるでしょう。
■人間関係面
良好な人間関係を築くことができるようになります。対人軸を変えて、相手の立場をとらえることで、相手を尊重した関わりができるようになるためです。たとえ、トラブルがあったとしても「相手はこの時、この点がイヤだと感じたんだな。じゃあ、こうするのがいいかも」と冷静に対応していけるようになるでしょう。
俯瞰力が役立つシーン
俯瞰力が役立つ場面をより具体的に理解できるよう、子どもが抱えがちな2つのシーンを例に見ていきましょう。俯瞰力がある場合とない場合とでどのようにアプローチが異なってくるかを紹介します。
シーン1:苦手教科の克服
苦手をつぶそうと思っても、ただやみくもにドリルや問題集に取り組むだけではなかなか苦手を克服することができないものです。俯瞰力がある子とない子とでは、どのように苦手に向き合うのでしょうか。
まず、俯瞰力がある子は、自分の苦手なポイントを分析し、できる部分とできない部分を切り分けることができます。漠然と苦手ととらえるのではなく、具体的にその教科のどの単元や項目が苦手なのかを把握するのです。
そのため、自分の状況に合った克服法を計画的に考えられます。「この単元が苦手だから、教科書にもう1回目を通してから、ドリルに取り組もう」「ここまでは解けるけど、このあとがわからないから先生に質問しよう」といった具合ですね。
一方、俯瞰力がない子は「今、できない」という状態や「点数が悪かった」という事実にばかり気を取られてしまいます。「何がわからないかわからない」と混乱し、「私には無理」と早々に諦めてしまったり、あまり効果のない対策をしてしまったりするかもしれません。
シーン2:友達とのケンカ
友達とのいざこざや行き違いは、子どもにはよくあるもの。
俯瞰力がある子であれば、自分の気持ちを押し通すのではなく、相手の立場にも立って気持ちを推し量ったり、行動の意味を考えたりできます。また、自分の感情や行動についても一歩引いて振り返ることができます。
そのため、なぜ行き違いが起きたのか、謝ったほうがいい点や、自分の気持ちを伝えたほうがいい点はどこかを整理して、落ち着いて問題を改善していくことができるでしょう。
一方、俯瞰力がない子は自分本位でしかとらえられず、すべて相手が悪いと怒りを覚えてしまいがちです。これだと、問題と向き合えず、解決につながりづらくなります。解決しないため、また余計にストレスがたまる……という悪循環に陥ってしまうこともあるかもしれません。
家庭でできる俯瞰力の高め方
俯瞰力は、家庭で高めていくことができます。「視点を変えて、全体像をとらえるといっても、子どもには難しいのでは?」と思われるかたもいらっしゃるかもしれませんが、心配無用です。コーチング的なアプローチを取り入れて、お子さまの俯瞰力の養成をサポートしていきましょう。関わり方のポイントは、次の3点です。
教えるのではなく、質問をする
お子さまが視点を変えて、一歩引いて考えられるような質問を投げかけることを意識するのがおすすめです。
ついつい「教えなきゃ」というレクチャーモードになってしまいますが、必要なのはレクチャーではなく質問。たとえば、お友達とのトラブルであれば「Aくん、そのときどんな気持ちになったのかな?」など、相手の立場を想像させるような問いかけができるといいですね。
保護者の質問をきっかけに考えることを繰り返すことで、自分でも視点を変えて考えるクセを付けていくことができるようになります。
子どもの回答はジャッジせず、受容する
保護者からの質問へのお子さまの回答は、なんのジャッジも加えずにそのまま受け止めてあげること(受容)がポイントです。否定するのは論外ですが、ほめたり感心したりする必要もありません。「ほめちゃだめなの?」と意外に思われるかもしれませんが、ほめることも「これはいいこと」という親の価値観が反映されたものです。親の期待する答えを言わなければ……と、お子さまが忖度(そんたく)するようになってしまいます。
大切なのは「そうだったんだね」とありのままをそのまま受容すること。ニュートラルに、ある意味、淡々と受け止めてあげてください。保護者の価値観を示さないことで、お子さまは自分の気持ちや考えにまっすぐ向き合うことができるようになるでしょう。
すぐに解決できない場合は、時間をおいて仕切り直す
保護者の質問にすぐに回答できない場合もあるでしょう。子どもは、言語化能力も発達途中。うまく言えないこと、すぐには気持ちを整理できないことがあるのが当たり前です。
「この時、Aくんはどう思ったのかな?」「よく考えてごらん。どう思ったと思う?」「ちゃんと考えた? どう思う?」と問い詰めていくのはNG。余計に何も考えられなくなってしまいます。「思いついたら教えてね」とおおらかに構えるくらいで大丈夫です。
時間を与えて寝かせることで、お子さまも状況を客観的にとらえられるようになるもの。考えも寝かせることで熟成することもあります。
もし、お子さまが状況を整理しづらそうにしていたら、人形やマスコットを使って整理していくことをおすすめします。とある学校の先生が実際にやられていていいな、と思ったのですが、言葉だけでなく、マスコットなどで視覚的に状況を図解できると、物理的にも一歩引いて見られて、思考を整理しやすいんですよね。
「このマスコットがあなたで、こちらの人形はAちゃん。Bちゃんはこれね」といった具合に話すと、一歩引いた視点でとらえられるはずです。
保護者の心のゆとりが成功のカギ
最後に大切な前提についてお話しします。コーチング的に問いかけ、受容し、時には時間をかけて対応するには、保護者の心にゆとりがあることが必要です。
疲れていたり、ストレスを抱えていたりしては、質問するより教えたり指示したりすることに流れてしまいがちですし、ありのままを受容できずイラ立ちをぶつけてしまうこともあるでしょう。
保護者のかたも日々忙しくされているのですから、受容する余裕を持てない時もあって当然です。まずは、ご自身の心の状態を整えることを優先してくださいね。心にゆとりができれば、子どもは自分で課題解決できる力があるとの立場に立って、おおらかに向き合うことができるはずです。
また、お子さまへの対応は最初からうまくいかなくて当然です。「ワンパターンな問いかけしかできないな」「思うように答えてくれずイラッとしちゃったな」「質問してるつもりが詰問になっちゃった」などいろいろな失敗もあるでしょう。
コーチング的な対応は、場数を踏んで、そのたびに振り返ることで感覚が養われていくもの。うまくいかないからといって、ご自身を責めないようにしてくださいね。また、本などを使ってケーススタディーで学んでいくのもいいでしょう。
私の著作『コーチングで学ぶ「言葉かけ」練習帳』なども参考にしながら、保護者自身も俯瞰力を磨いていくことをおすすめします。
まとめ & 実践 TIPS
俯瞰力があると、状況を適切にとらえ、建設的に解決していくことができるようになります。お子さまの視点を変える問いかけや受容をとおして、将来にまで役立つ俯瞰力を養成していけるといいですね。親子共に俯瞰力を身に付けることは、良好な親子関係にもつながることでしょう。
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