言わないと動かない子どもが主体的になるちょっとした一言[やる気を引き出すコーチング]

先日、中高校生、大学生、大人も一緒に参加するコーチング合宿を行いました。自分自身のことをふり返りながら、最終的に、自分の夢や目標の明確化に取り組むプログラムなのですが、こんなことはじっくり考えたことがないという子も多く、最初はかなり戸惑っている様子でした。

自己探求、自己選択のトレーニングのため、折々に「やってみてどう思った?」、「次はどうしたい?」と質問を投げかけていきますが、何を答えていいのかわからず、じっと黙ったままだったり、自分の考えを書き込むワークシートを前に、しばらく固まってしまったりという状況でした。それ以外に、今回あらためて驚かされたことがあります。

指示と許可がないと動けない子どもたち

こちらが指示をしないと、まったく自分たちでは動けないことです。もちろん、初めての場所で、初めて体験することばかりですから、最初は勝手がわからないこともあるでしょう。ところが、2日目になっても、「じゃあ、食事の準備をするので手伝って!」、「このお皿をこちらに持ってきて!」などといちいち言わないと動けないのです。

「15分休憩したら食事の準備をしますね」と言っておいても、声をかけないと集合しません。状況を自分たちで察して、言われる前に動いてほしいなと思うのですが、「声をかけられるまでは動かなくても大丈夫」と思っているようでした。

以前、出会った高校生がこんなことを言っていたのを思い出しました。

「学校だと、こうしたほうがいいかなと思ってやったことでも、言われていないことをすると『余計なことはするな』、『やっていいって誰が言った?』と言われてしまいます。時間が来ると、先生が『やりなさい』と言うので、それまでは余計なことはしないほうがいいんです」

その結果がこのような状況を作ってしまうのでしょうか。「自分で考えなさい」、「主体的にやりなさい」と言われながら、子どもたちは、自己選択、自己決定する機会を、実はほとんど与えられていないのかもしれません。

受容と承認と感謝の言葉

今回の合宿のスタッフはみんなコーチです。子どもたちにとっては、それもとても新鮮な体験だったようです。

「これをやってみて、どう思ったか聞かせてくれる?」と問いかけた後は、相手がどんなに黙っていても、コーチはしばらく黙ってじっと待ちます。子どもが考える時間を邪魔しません。出て来るまで待ちます。やっと絞り出した言葉は、どんな言葉であっても、必ず受容と承認と感謝をします。「なるほど、そう思ったんだね!」(受容)、「いいね!すばらしい!」(承認)、「話してくれてありがとう!」(感謝)

「ここのお皿、洗ってもらえる?」と声をかけた時も、必ず承認と感謝の言葉を伝えます。「きれいに洗ってるね!上手!ありがとう!」一事が万事、このちょっとした一言を加えていきます。
「ちょっとそこのお塩、とってくれる?ありがとう」
「ここ片付けておいてくれたんだね!助かる!ありがとう」

別に意図的にやっているわけではなく、コーチ陣はもう習慣化されているので、自然にやっています。

高校1年生の参加者は、「2日目までは主体性がなかったけれど、3日目から急激に主体性が上がったように思えた」と言っていました。「自分の思いを伝えることで、相手からの思いやほめ言葉をもらえた。自分の言動に『ありがとう』がついてきて、それが嬉しくて、『またやろう』という気持ちになる。それが成長の糧になっていた」とふりかえっていました。実際、3日目の子どもたちは、別人のように、自分の夢を語り、主体的に動いてくれました。

特別なテクニックなど何もありません。子どもの言動に対して、「いいね」、「ありがとう」を言ってあげるだけで、子どもの主体性はどんどん引き出されていくのです。

プロフィール


石川尚子

国際コーチ連盟プロフェッショナル認定コーチ。ビジネスコーチとして活躍するほか、高校生や大学生の就職カウンセリング・セミナーや小・中学生への講演なども。著書『子どもを伸ばす共育コーチング』では、高校での就職支援活動にかかわった中でのコーチングを紹介。

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