それでも「やりたいことがわからない」という子どもへの関わり方[やる気を引き出すコーチング]

 先日、こちらのコラムで、「やりたいことがわからない」と言う子どもへの質問例についてご紹介したところ、「早速、試してみました」というメッセージをいただきました。嬉しく拝読したところ、このような質問も添えられていました。
「試してみたのですが、うちの子は、それでも『わからない』と答えるばかりで、親子共々、気が滅入ってしまいました。このような子どもには、どうしたらよいのでしょうか?答えはもちろん、私たち親子の中にあるとは思うのですが、石川先生はどうされていますか?」  私見ですが、この場を借りて、ご回答します。

■「本当はどうしたい?」と折々に質問し続ける

高校生の進路相談の体験を通して、あらためて学んだことがあります。「やりたいことがわからない」を真に受けてはいけないということです。

「やりたいことがわからないので志望校を決められない。だから、受験勉強にやる気が持てない」と言うA君と話していた時のことです。
「いずれ就職するにしても、つぶしが効きそうなところがいいって親は言うんですよね」 「そうなんだ。で、A君は何がしたいの?」
「いや、別に、それがわからないんですよ。好きなことやっても、将来、稼げるわけじゃないですし・・・」
「うん、で、A君自身は、本当はどうしたいの?」
「え?・・・オレ?・・・」
「なんか、親がこう言ってるという話に聴こえるけど、自分は、本当は!どうしたいの?」

その後、絞り出すように出てきた本音で、A君のスイッチが入りました。本当に好きなことができるんだったら、もっと勉強もがんばる!と姿勢が変わりました。
こんなことを言ったら、親に反対されるから口に出してはいけないと思って、自分でも無意識のうちに、本音を封印している場合が往々にしてあります。ですから、こちらは、どんな答えが出てきても受けとめるという覚悟を持って質問し続けます。
もちろん、質問攻めで追い込んでは逆効果です。
時間を置いて、折々に「本当はどうしたい?」と問いかけます。しだいに、子どもの中で、自分の本心と向き合うアンテナが立ち始めます。

■「今、わからなくてもいい」と伝える

進路選択に悩む中高生に、私はよく自分の出身学科の話をします。
「私ね、インド・パキスタン語学科ヒンディ語専攻という学科を卒業したんだけどね、今、まったく関係ない仕事をしているよ」
「え〜?どうしてそれを選んだんですか?」
「高校生の私は、単純に『なんかおもしろそう』って思ったの。それだけ。そんなもんだよ。10代の頃に考えることって。その時の選択がどうであっても、今は、この仕事に出会えて本当によかったなと思えているよ。人にはベストタイミングがあるんだよ」
「ベストタイミング?」

「そう!『やりたいことに出会える』タイミング。それは、人によって各々違っていいんだよ。私の友達で、幼稚園児の時に、『幼稚園の先生になりたい!』と思って、本当に幼稚園の先生になった人がいるけど、この人の進路選択のベストタイミングは幼稚園の時だったってこと。私の場合は、すっかり大人になってからだったっていうだけ。
友達よりはずっと遅いけど、私は会社に入って社会人経験を積んでから、この仕事に出会えて、すごくついていたなって今では思うよ。
今、わからないからって心配しなくていいし、『あ、まちがったかも』と思う選択をしたとしても、絶対にリベンジできる。無駄な体験は何もない」

「そんなもんかな?」という顔で聴いてくれていますが、「まあ、今、わからなくても大丈夫なんだな」と安心はしてくれます。
「わからない」自分を卑下し、将来に不安を覚えながら大人になっていくより、「わからなくても大丈夫」という根拠のない確信を持って、「どんな可能性が自分にはあるんだろう?」とワクワクしながら生きていくほうがよほど健全だと私は思います。

プロフィール


石川尚子

国際コーチ連盟プロフェッショナル認定コーチ。ビジネスコーチとして活躍するほか、高校生や大学生の就職カウンセリング・セミナーや小・中学生への講演なども。著書『子どもを伸ばす共育コーチング』では、高校での就職支援活動にかかわった中でのコーチングを紹介。

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