児童精神科医が解説! 子どもに「うつ病」が疑われたら、こう接しよう! 【後編】

 前編・中編を通して、うつ病が誰にでも起こりうることや子どものうつ病のサインなどをご理解いただけたはずです。それでは、わが子がうつ病を疑われたら、どのように接するとよいのでしょうか。引き続き、児童精神科医の猪子香代先生が解説します。

子どもがうつ気分に悩んでいるときに心がけたいこととは?

 子どもがうつ病かもしれないと感じたら、すぐにしてほしいことがあります。それはうつ病の予防にも通じることですので、普段から頭の中に留めておいていただきたいと思います。

◆厳しく叱らず、気持ちを受け止める

うつ病の子どもに対して最もやってはいけないのは、叱ることです。子どもの成績が落ちたり、学校に行きたがらなかったりしたら、きつく叱って気持ちを引き締めようとする保護者もいらっしゃるかもしれません。確かに、きちんと学校に行き、しっかりと勉強するに越したことはありませんが、うつ病が原因の場合、話は別です。そのときの子どもの状態に合わせて無理をさせず、やれることをやり、できたことを認めるという態度を徹底してください。それが、子どもが徐々に自信を取り戻す支えとなります。逆に、以前の元気な頃と比べて、「これくらいで満足しちゃだめ」という態度を取ると、子どもは余計に落ち込んでしまいます。

◆うつ病を予防するという視点を持つ

うつ病は、基本的には予防できる病気です。普段からうつ気分を悪化させない接し方を心がけましょう。

例えば、子どもの不安をあおって行動させるのはよくありません。確かに不安は強い感情ですから、「ちゃんと勉強しないで受験に失敗したら大変よ」などと言えば、子どもは勉強するかもしれません。しかし、子どもの内面に不安はくすぶり続け、それが大きくなるとうつ病につながることもあります。できるだけ前向きな言葉をかけるコミュニケーションを心がけてください。

子どもは元気いっぱいなように見えて、案外、疲れやすいものです。「疲れた」「つらい」といった言葉が聞かれたら、それ以上がんばらせずに休ませましょう。誰でも嫌なことがあったり疲れたりしたら「プチうつ」の状態になるものです。その状態を本格的なうつ病に悪化させないためには、ゆっくりと眠ったり、ぼんやりと時間を過ごしたり、休むことが欠かせません。

◆うつ病の原因を特定しよう

うつ病の原因を特定し、取り除くことも大切です。明確な原因がわからない場合、まず親子関係を見つめ直すことから始めてください。うつ病の子どもは、多かれ少なかれ、親子関係からストレスを受けていることが多いからです。家族の環境によっては祖父母などとの関係性も考慮する必要があるでしょう。

ただし、親子関係を見つめ直して改善していくことは簡単ではありません。医療機関では子どもだけではなく、保護者からも十分にお話を聞き、そのお手伝いをします。

精神科でうつ病と診断されると、精神療法や認知療法などを行います。精神療法とは、問題を抱えている本人が自分のことを話すものです。話すうちに気持ちがずいぶんと楽になることも少なくありません。認知療法とは、物事の見方を修正するように働きかけることです。同じ出来事でも、ポジティブ、ネガティブのどちらに受け取るかは、その人しだいです。うつ病の子どもはネガティブな考えを持ちやすく、それが症状を悪化させています。そうした悪循環を断つことが、認知療法のねらいです。そのほか、症状によっては、保護者と十分に相談をしながら薬物療法を行う場合もあります。

うつ病の治療は、その後の人生を豊かにする「人生経験」

 一般論としてうつ病は再発することが少なくありませんが、治療を通してストレスとの向き合い方を知ることで、そのリスクを大幅に軽減させられます。受診することは、いわば、その後の人生を豊かにするための人生経験の一つと捉えていただきたいと思います。子どもがうつ病になると、「育て方が悪かったのでは」などと悩んでしまう保護者は多いのですが、一人で悩みを抱え込まず、気軽な気持ちで受診していただきたいと思います。

プロフィール


猪子香代

横浜市の児童精神科・猪子メンタルクリニック院長。東京女子医科大学非常勤講師。東京女子医科大学卒業後、東京女子医科大学病院小児科、名古屋大学病院精神科などで長く児童精神科の臨床を経験し、2011年に猪子メンタルクリニックを開設。著書に『子どものうつ病』(慶應義塾大学出版会)、『子どものうつ病ってなあに?』(南々社)がある。

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