厳しい一流人の人生を考える授業

毎週のように学校を訪ね、たくさんの授業を見ています。そして、先生方から授業への想いを聞いています。小学生から高校生、そして、先生や保護者の方に役立つ教育番組を制作するためです。その中で、「こんな先生に教えてほしい」と思った先生方のことを書かせていただきます。

前回に引き続き、今回も「わくわく授業~わたしの教え方~」夏休みスペシャルとして紹介したノーベル賞受賞者による授業を紹介します。
先生は、1973年に、ノーベル物理学賞を受賞した江崎玲於奈先生です。

夏休みの12日間、科学が好きという中学2年生が全国から集められました。
目標は、「創造性を伸ばし、日本の科学を担う芽を育てる」ことです。合宿形式でさまざまなプログラムが用意されました。最初の授業では、2002年にノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊さん。そして、江崎先生は、締めの最後の授業を担当しました。

授業当時、江崎先生は81歳です。半導体の研究で画期的な業績を上げ、ノーベル賞を受賞してから43年が経っていました。ちなみに今回集まった中学生たちは、正直、江崎先生のことを教科書で知っている程度でした。

今回、江崎さんが伝えようと考えたのは、「自分のもって生まれた能力(タレント)の限界に挑戦することと、それをできるだけ伸ばそう」ということです。

私が印象に残ったのは、江崎先生が言った次の言葉です。
「人生とは自分が主役を演じるドラマ。自分が一番楽しく、自分の能力が最大限発揮できるシナリオライターは自分であり、そのシナリオを書く能力を得るのが教育の目的で、だからこそ、自分の演ずる人生のドラマのシナリオをしっかり書いて欲しい。」
自分の人生を変えられるのは自分次第ということです。

授業は、江崎先生のこの言葉から始まりました。
「話すことはレジメに書いている。
頭がよかったら、寝てもいい。あとで読めばいいから。
でも、頭が悪かったら聞いて。でないとわからないから。」

この言葉を聞いた瞬間、中学生たち背筋がピンっとなったのは微笑ましかったです。厳しい一流人の人生を考える授業のスタートです。

まず、考えるべきは、What should Ido with my life?(わが人生、何をするべきか)だと伝えました。 

そして、各年代の目標を示します。
●少年期(Child-hood)0-12歳
・他人から教えを受け、それに従う。
・他律的生活をおくる年代。

●ティーンエイジャー(Teenager)13-19歳
・他律に対して疑問を抱き、探求する意欲を持ち始める。
・これまでの自分とそれを批判するもう一人の自分が出てきたことを意識し、自我に目覚める。
・自主的教育もあって、個性(人格)が育ち始める。心身ともに目覚ましく変化し、成長の最も著しい年代
 ※いかにこの時期を乗り越えるかが大事

●成人期(Adult-hood)20歳-
・思考能力を備え、自分が規範と決め、それに従う。
・自律的生活をするべき年代。

つまり、目標は、成人期において、人から言われることに対して疑問を持ったり、判断したりできる。さらに、自分を客観的に見られて、自己コントロールができるといった「きちんとした大人」になることです。

さらに、江崎先生は、中学受験に失敗した話を始めました。
第一希望に入れず、同志社中学校に進学しました。ここで、外国人の先生に英語を教えてもらい、幅広い知識を身につける重要性をはっきり意識するようになったと言います。この経験が、科学の道に進んだ時、一芸に秀でるより、幅広い知識を持つようにつとめたことが、ノーベル賞受賞にもつながったというのです。 

失敗したと思ったことも、自分の学ぶ姿勢次第で、成功への足がかりになるというのです。

続いて、ノーベル賞をとるためにしてはいけない5ヵ条です。
1)今までの行きがかりに捉われてはいけない。
しがらみに捉われるとブレイクスルーを感知できない。

2)大先生を尊敬するのはよいが、のめり込んではいけない。
のめり込むと自由奔放な若い時分を失う。

3)情報の大波の中で、無用なものは捨て、自分に役立つものだけを取捨選択しなければならない。

4)他人の言いなりにはならず、自分を大事に守るためには戦うことを避けてはいけない。

5)いつまでも初々しい感性と知的好奇心を失ってはいけない。
人間社会にはいろいろなしがらみがあります。
でも、進歩するために決断する大切さを示したのです。

人間には、【必要なものを区別する分別力】と【新たなものを生み出す創造力】がある。これは…

【自分は何をするべきか(What should Ido with my life?)】

【自分は、何が最も得意か(What am I best at?)】
に対応します。

特に、【自分は、何が最も得意か】と意識し続けることは、独創力や創造力を培う原動力になります。

最後に江崎先生は、ルイ・パスツール(フランスの生化学者、細菌学者)の言葉を送りました。 

「チャンスは、準備の整った人を好む」
チャンスを活かせる人は、たゆまぬ努力を続けてきた人だということです。
言葉を換えれば、「能力の必然がなければ、偶然の幸いを活かせない」ということです。

江崎先生がねらったのは、中学生に「生きるため」「学ぶため」の指針を示すことだったと思います。

その背景には、「なぜ君はそれを選んだの?」「なぜそう考えたの?」と常に自分に問い続ける姿勢こそが、人の進歩の源であると信じているからだと思いました。

今回の江崎先生は、中学生に向けて話していましたが、話を聞きながら、この話は、児童・生徒の力を伸ばせない先生が聞くべきだと、ずっと思っていました。

(筆者:桑山裕明)

プロフィール


桑山裕明

NHK編成局編成センターBSプレミアムに所属。これまでに「Rの法則」、「テストの花道」、「エデュカチオ」、「わくわく授業」、「グレーテルのかまど」「社会のトビラ」(小5社会)、「知っトク地図帳」(小3・4社会)「できた できた できた」、「伝える極意」「ひょうたんからコトバ」などの制作に携わる。毎週のように学校を訪ね、たくさんの授業を見ている。

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