地元の産業から、人の「想い」に触れる社会科の授業
小学4年生社会科の授業において、富山県のAU先生は、学んだ事実の奥にある人の「想い」に気付くことが社会科の意義だと考えています。どんな授業か、ご紹介しましょう。
今回の単元は、「山地の暮らしと伝統工業」。そこで、先生が選んだ題材は、「五箇山和紙」。富山県南部の山地、五箇山地方で1200年前から昔ながらの方法で作り続けられている和紙です。この和紙を今も作り続けている人々の「想い」を知るために、先生さまざまな工夫と準備をしました。
まずは、社会見学です。五箇山地方の和紙を紹介する和紙工芸館に向かいます。ここで、面白かったのは、学校から五箇山地方までのバスの中です。移動時間は1時間。その間は、クイズ大会で頭の準備体操です。タイトルは、「平地と山地の違い」。この比較の視点をちょっと与えるだけで、風景の意味が違って見えてきます。
平野の様子を見ていた子どもたちは、山地に入ると、「木が多くなってきた」「トンネルが長い」「電波が悪い」「病院が少ない」など次々に声を上げはじめました。ここで言葉にしたことが、山地の暮らしのイメージとなり、和紙作りを学ぶ土台となっていきます。
この後、子どもたちは和紙の手すき体験をしたり、職人さんの話を聞いたりしながら、和紙の作り方や歴史を学びます。「和紙作りには奇麗な水と植物が必要」「一日にすける枚数は、200枚くらい」「紙すきの技術は、中国から伝わった」「和紙の値段は高」などなど自分の興味のある話をすべて聞き出して、子どもたちは、気分的にすっかり和紙博士です。
そんな子どもたちに向かって、先生は、教室に帰ると質問をします。
先生「五箇山和紙なんて、なくてもいいんじゃないの?」
子ども「……」
ちょっと絶句で……「今までにやってきたことは何だったの?」という感じです。
たたみ掛けるように先生は、和紙の値段を示し、比較として洋紙の値段も示しました。コウゾ100%の和紙は、1枚70円。同じ大きさの洋紙は、1枚1円です。そして、クラス35人分を買うとすると2,450円対35円とつきつけるのです。そんな子どもたちの気持ちがゆれたところで、「なぜ和紙作りは今も続いているのでしょうか?」と聞くのです。
子どもたちからは、「和風の家には欠かせないから」「五箇山には、和紙が好きな人がいるから」などという声が出ます。そこで、先生は、すかさずグラフを出します。和紙作りを行う人の数を示したものです。
すると、和紙製造業に携わる人が年を追うごとに減っていたのです。
もう、子どもたちの頭の上には「???」だらけです。
先生は、このような事実を提示することで、子どもたちが築いた「伝統産業の和紙は素晴らしい」というイメージに揺さぶりをかけたのです。これは、知ったつもりになっていることに気付き、「わかっていないことがある」と意識させるのがねらいです。
「意外」と感じること。これは、興味・関心を高める最も効果的な方法です。そして、「学ぶ」ことの原動力ともなりますが、先生方が一番苦心する点でもあります。言葉を変えれば、先生の力量が現れるところです。
このあとは、先生は、ゲスト・ティーチャーを呼んでいました。五箇山地方で和紙作りをしている職人さんです。ちなみに、和紙作りを続けている3軒のうち2軒は、和紙工芸館と組合。そして、もう1軒が、家族と近所の人と8人だけで行っている宮本友信さんというかたです。
子どもたちは、宮本さんから和紙の話を聞きました。和紙は、何百年ももつこと。だから、宮本さんが作っている和紙は、巻物や古文書、建物など重要文化財の修復等に欠かせない。そして、材料のコウゾを蒸して、雪の上において漂白する「雪ざらし」という作業が必要で、そのためにも雪深い五箇山は、和紙作りに適していることを学びました。
「意外」と感じたうえに、「発見」があって腑(ふ)に落ちる。 これをきちんと用意することは、授業の鉄則であり、授業の上手な先生かどうかを見極める目安になると思います。ぜひ、授業参観などで、チェックしてみてください。
(筆者:桑山裕明)