「当たり前」のことが子どもの自己肯定感を高める[やる気を引き出すコーチング]
「自己肯定感が低い生徒が多いので、ぜひ、自分に自信が持てるようなお話をお願いします」と、中学校や高校から講演を依頼されることがよくあります。
確かに、自信に満ち溢れ、自分の将来に可能性を感じている子どもには、なかなか出会えません。なぜなのでしょう?原因を分析すると、いろいろありそうですが、先日、あるピアノの先生から、おもしろいお話をうかがいましたので、今回は、そこから感じたことをお伝えしたいと思います。
来ただけでOKのピアノ教室
「うちのピアノ教室は、もう、レッスンに来てくれただけでOK!の教室なんです。どれだけ練習してきたかとか、どれだけ上達したかは二の次です。生徒さんが来てくれたら、『今日も寒い中、よく来てくれたね~!先生、すっごく嬉しいよ~!』と大歓迎するところから始めます。そのまま、学校であったことを話し始める子もいます。おしゃべりだけで、レッスン時間が終わってしまうこともあります。ピアノ教室としては、どうなんだろう?と思いますが、以前よりは、各々のペースで、各々の目標に向かって、楽しそうに練習するようになりました。
え?以前ですか?以前は、少しでも遅刻してきたら、『どうして遅れたの?』って、私がすごい剣幕で怒鳴っていたので、レッスンの雰囲気がすごく悪かったんです。『もっと練習させて、どんどんコンクールに出させて、良い賞をとらせるのが私の役割!』と思っていたので、寸暇を惜しんで練習させるのがよいことだと思っていました。
でも、それは、私の目標であって、子どもによって、目指すところが違うんですよね。コーチングを学んでからは、『この子はどうなりたいのか?どうしたいのか?』にしっかり耳を傾け、まず、『教室に来てくれたことだけですばらしい!』と認められるようになりました。
そうしたら、自分のレベルをはるかに超える楽譜を持ってきて、『先生、学校の合唱コンクールで、どうしても、この曲の伴奏をしたいので、練習みてもらえませんか』って、自分から言ってくるようになったりするんです。自分がやりたい曲だから、熱心に練習するんですよ。で、弾けるようになってしまう。感動しますよ!」
当たり前のことを見逃さない
この先生の大らかさには、とても驚かされますね。でも、大人のこういう姿勢こそが、子どもの自己肯定感を育むうえで、とても大切なのだと感じます。朝早くから、バスや電車を乗り継いで、毎日通学している高校生の話などを聴聞いていると、「偉いな~!私だったら、絶対イヤになるな~」と感心したり、朝から夕方まで、何時間も机に座って授業を受けるなんて、「そんな集中力、私にはもうないな~」と思ったりします。
「時間通りに学校に行くのは当たり前」、「授業を受けるのは当たり前」かもしれません。別に、とりたてて、ほめることではないかもしれません。が、私は、この当たり前のことこそ、「すごいことなんだよ!」と、もっと認めてあげたらどうかと思います。できていない時だけ、できていないことばかりを指摘され続けると、いつまでたっても、「今の自分ではまだ不十分だ」という意識が拭い去れないのではないでしょうか。
勉強ができなくても、何かに秀でていなくても、「あなたは生きているだけですばらしい!」と、子どもを受けとめることができたら、子どもたちの自己肯定感はもっと高まっていくはずです。その自己肯定感が、自発的なチャレンジへとつながっていくのです。
起きること、ごはんを食べること、着替えること、「行ってきます」と言うことなど、子どもが当たり前にやっていることが、よくよく観察してみると、日常生活にはけっこうありますよね。そこを見逃さず、「今日もできたね!」、「今日もやってるね!」と声をかけてあげてほしいなと思うのです。
(筆者:石川尚子)