「Please」や「Thank you.」を使って笑顔を生み出す英語の授業とは

毎週のように学校を訪ね、たくさんの授業を見ています。そして、先生方から授業への想いを聞いています。小学生から高校生、そして、先生や保護者のかたに役立つ教育番組を制作するためです。その中で、「こんな先生に教えてほしい」と思った先生方のことを書かせていただきます。

京都市内の小学校を回り、英語活動を教えていたA先生の授業を紹介します。英語活動については、さまざまな意見がありますが、現在A先生は、日本の英語活動のリーダー的存在になっています。そんなA先生の当時の授業は、子どもたちに英語を「学ぶ」楽しさを感じさせるたくさんの工夫を凝らしたものでした。

その授業は、ほぼ初対面の小学5年生に行われたもので、人と人とがコミュニケーションする時に、欠かせない言葉の「お願いします=Please(プリーズ)」と「ありがとう=Thank you.(サンキュー)」を軸にしたものです。そして、特長的なのは、ゲーム感覚で取り組みながら、随所に「Please」や「Thank you.」を使う場面が組み込まれていることです。言葉を換えれば、子どもたちの心の動きに沿った授業といえます。

最初に先生は、教室の前で子どもたちの名前を呼びながら、迎え入れています。実は、ここから授業が始まっています。先生のねらいは、「名前を覚えてくれているんだ!」と子どもたちに印象を残すことです。そして、授業を始めるとすぐに、手作りの名札を一人ひとりに手渡していきます。ただ、どれも頭文字が抜けています。

たとえば、「Kouji」だったら、名札は、「□ouji」となっているのです。
そして、先生は、その文字を用意し、子どもたちに「必要な文字は?」と尋ねるのです。

Kouji:K.
すると……
先生:Bye-bye.
と言って、文字をくれません。そして、何人か、同じことを繰り返した時、思い出した子が出てきました。
Sakiko:S please.
先生:Very good.
さらに……
先生:What color?
そう、文字には、さまざまな色も用意してあるのです。そして……

Sakiko:Orange.
先生:?(先生は困った顔)
Sakikoはすぐに気付いて……
Sakiko:Orange please.
先生:Here you are.
Sakiko:Thank you.
ここで、子どもたちは、前回やった「Please」や「Thank you.」を思い出したようです。

次に、先生は、1枚のボードを用意します。
これは、自己紹介表と呼ぶもので、「好きな食べ物」「好きなアルファベット」「好きな教科」「嫌いな教科」という4つのパートに分かれています。
先生は、それぞれのパートに絵付きのカードを貼っていきます。

A先生の自己紹介表は、以下のように完成されました。

好きな食べ物
pudding(プリン)
cake(ケーキ)
natto(納豆)

好きなアルファベット
K・Y・T

好きな教科
math(算数)
PE(体育)

嫌いな教科
social studies(社会科)
science(理科)

こうしてやり方を示したところで、A先生は、ゲストとして、担任の先生を呼びます。子どもたちは「嫌いな教科」が担任の先生に知れてしまうことがわかり、ザワザワしますが、これで、先生と子どもたちの距離が一気に縮まり、教室が活気付きます。

早速、子どもたちの自己紹介表作りが始まります。
A先生と担任の先生で手分けして、画用紙を配りますが、「何枚欲しい?」と尋ねます。忘れたころにやってくる「Please」や「Thank you.」です。
さらに、畳み掛けるように、「画用紙の色は、他にもあるよ!」と伝えます。そう、これも「Please」や「Thank you.」を使う場面です。
そして、絵付きのカードを取りに来るように伝えます。再び「Please」や「Thank you.」の場面です。
そして、出来上がった自己紹介表を子どもたちは、お互い楽しそうに見せ合っていました。

私の印象は、子どもたちが「なんか得したな!」と感じていることでした。
よい授業の特長のひとつは、終わったあとに笑顔が残る授業だと思います。

(筆者:桑山裕明)

プロフィール


桑山裕明

NHK編成局編成センターBSプレミアムに所属。これまでに「Rの法則」、「テストの花道」、「エデュカチオ」、「わくわく授業」、「グレーテルのかまど」「社会のトビラ」(小5社会)、「知っトク地図帳」(小3・4社会)「できた できた できた」、「伝える極意」「ひょうたんからコトバ」などの制作に携わる。毎週のように学校を訪ね、たくさんの授業を見ている。

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