一枚の写真から「英語を使いたくなる気持ち」を引き出す授業
今回は、東京都のAO先生の中学生版の授業です。
AO先生は、幼稚園から大学まで、すべての学校で英語を教えた経験があり、その目標は、【聞けて、読めて、書けて、話せる】英語。つまり「使える英語」を身に付けさせることです。
小学生の段階の目標は、【聞く力】を身に付けさせることでした。
それを中学生では、【読み、話し、書く】力と、どう結びつけるか? AO先生は、そのために大事なのは次の2つだと言います。
・英語を使いたくなる気持ちを育てる
・【聞く】と【話す】の間に【読む】を入れる。
つまり、学習の順番を【聞く】【読む】【話す】【書く】という流れにする
それは、どんな授業なのでしょうか。
授業は、先生が取り出した1枚のカンボジアの少女の写真を題材に進んでいきます。黒板に少女の写真が貼られ、名前が、バン・サッカナさんということだけが明かされます。
そして、彼女の住むカンボジアという国について紹介されます。アジアにあり、人口は1,100万人。第2次世界大戦後、カンボジアでは内戦が勃発し、たくさんの人が死に、たくさんの人が手足を失い、たくさんの子どもが殺され、お父さんやお母さんを失いました。中学校に行ける人は17%ほど。82%の人がきれいな水を飲めないなどの情報が伝えられました。
次に、先生は、バン・サッカナさんについて質問を始めました。
何歳だと思う?
何が好きかな?
彼女は何をしているの?
彼女の夢は?
お父さんの名前は? など
子どもたちは……「えっ、先生どうしちゃったの? わかるわけないじゃん!」という感じです。
これは、「どういうこと?」と心を動かすためのテクニックです。「人の心を動かす」ことは、教えることの第一歩です。
そして、すかさず先生は、バン・サッカナさんのことが書かれた英文を配ります。文章の数は30。誕生日、家族、好きなことについて書かれています。
そして、先生は、「意味がわかった文章には線を引いて!」と指示を出します。
この英文は、既に習った単語や文法だけで書かれています。ちなみに、動詞はspeak、have、likeなど限られた言葉だけです。
でも、線を引けない生徒はいます。すると、先生は、そばに行き英文を声に出して読み上げます。不思議ですが、何度も聞いていると、聞いたことがある単語として思い出すようで、音と文字を結びつけ、文章の意味をつかんでいきました。
線を引く部分が増えると共に、バン・サッカナさんのことがわかっていきます。
バン・サッカナさんは……
15歳。
お父さんはいない。
好きなことはダンス。
すると、先生は、「ダンスと言っても伝統的な踊りだそうだよ」といってバン・サッカナさんが練習している写真を取り出しました。このように、子どもたちの興味をひく情報を用意し、ちょっとずつ明らかにすることで、興味・関心が持続します。
さらに、先生は、「みんなが読んだのは、バン・サッカナさん自身が書いたモノ」と種明かしをします。
そして、彼女は、英語を学び始め、少し、読んだり話したりできる状況だと伝えました。さらに、「じゃあ、今度はみんなが彼女に英語で手紙を書かない?」と促しました。
生徒たちは、すぐに「やる!」と言い出します。みんな、バン・サッカナさんの文章をちょっと変えるだけで、自分を紹介できる文章になることがわかったからです。
「伝えたい!」という気持ちから、みんな辞書を自然と引き出しました。
授業の最後は、書いた手紙をみんなの前で発表です。
AO先生の言葉で印象に残ったのは……
「自分たちがわかる言葉で書かれているモノを読んで、わかる。そんな経験をすると、話すチャンスが生まれてくる」
先生の仕事とは、機会を与えて待つものだな……と改めて思いました。