課題を持って街を歩かせ、視点を広げる社会科の授業[こんな先生に教えてほしい]

毎週のように学校を訪ね、たくさんの授業を見ています。そして、先生方から授業への想いを聞いています。
小学生から高校生、そして、先生や保護者のかたに役立つ教育番組を制作するためです。その中で、「こんな先生に教えてほしい」と思った先生方のことを書かせていただきます。



今回紹介するのは、東京都の中学校で社会科を教えるAO先生の授業です。中学1年生が、地域の放置自転車の解決に挑みます。

授業は、ビデオを見ることから始まりました。放置自転車があることで、火事が起きても消火器が取り出せなかったり、緊急車両などが通れなかったりして、困った経験を持つ人たちの証言が映し出されています。これは、放置自転車の問題点と、自分たちの身の回りにある放置自転車をはっきりイメージさせるために先生が選んだものです。
「考えよう!」という意欲・関心を持たせるように仕向けていくことが、授業づくりの第一歩です。そのためには、「誰かの役に立つ」と「自分も困るかも……と自分のこととしてとらえる」ようにしなければなりません。こうした導入がうまい先生は、授業の達人といえると思います。

ビデオを見た後、先生の最初の質問は……
「どんなところに放置自転車がある?」
 →看板、電柱の側、路地裏 など人目につきにくい場所の条件が出ました。
続いての質問は、
「止めやすい条件は?」
 →店が閉まっている、壁が汚い、看板や標識がないところ などの声が出ました。
さらに、もうひとつ質問は、
「逆に置きづらい場所の条件は?」
 →駐輪禁止の看板があるところ。柵など障害物がないところでは?といった意見が出ました。

先生の質問は、さまざまな角度から放置自転車が置かれている条件を考えるためで、その後、クラス全員でまとめて、放置自転車の置かれている場所で調べることは、次の4つに決まりました。

 1) 壁…場所と汚れ具合を調べる
 2) 店…店の営業時間
 3) 駐輪禁止の標識や柵などの位置…その効果と手作りの場合の効き目
 4) 電柱・道路標識の位置…死角が置きやすいかどうか?

ここでの先生のこだわりは「調べることは、1人ひとつだけを選ぶ」としたことです。これは、調べることに責任を持たせるだけでなく、ほかのグループが集めたデータを見た時の驚きをより効果的にするためだそうです。

生徒は、4つのグループに分かれ、実際に街に出て調べます。そして、調べたデータを「デジタル地図」に打ち込み、情報を共有します。「デジタル地図」にするのは、放置自転車の位置と4つの情報の関係を視覚的にするとともに、4つの情報を組み合わせて考えることが簡単にできるからです。

たとえば、放置自転車と壁の関係を見ながら、営業時間はどうなのかと追加して見ることができます。そして、データを重ね合わせ、自転車が置かれやすい要因を推測していくと

●きれいな壁より汚い壁のほうが、放置自転車が多い。ただし、人目がなく、置くのに便利な場所だと放置自転車がある。
●花壇は効果があるが、柵は、自転車をかえって止めやすくするため効果がない。

などの発見がありました。そして、全員が納得した効果的な対策は、「障害物と人の目」があることでした。

「課題を持って実際に歩いてみると、いつも歩いている街が違うものに見えてくる」……これは、今回、生徒全員が感じたことです。
「教育とは、多様な視点を持つ機会をつくること」だと、改めて感じた授業でした。

プロフィール

桑山裕明

桑山裕明

NHK編成局編成センターBSプレミアムに所属。これまでに「Rの法則」、「テストの花道」、「エデュカチオ」、「わくわく授業」、「グレーテルのかまど」「社会のトビラ」(小5社会)、「知っトク地図帳」(小3・4社会)「できた できた できた」、「伝える極意」「ひょうたんからコトバ」などの制作に携わる。毎週のように学校を訪ね、たくさんの授業を見ている。

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