神経質過ぎる子育て、子どもに与える影響とは?
お子さまを大切に思うあまり育児に神経質になることは誰にでもあるものですが、その度が過ぎると、よくない影響を与えてしまいかねません。神経質過ぎる育児がお子さまに与える影響について、発達心理学を専門とする法政大学文学部心理学科の渡辺弥生教授にお話をうかがいました。
育児に対して神経質過ぎる保護者は増えている
以前、育児不安を抱えるお母さんが集まるワークショップで、「うちの子はとってもよく笑うんですよ。でも、笑わせ過ぎたら変な子にならないでしょうか?」という質問を受けたことがあります。「よく笑うお子さまで嬉しいですね。大丈夫ですよ」と笑って返しましたが、そのかたにとっては深刻な悩みだったようです。
そのように育児に対する不安が大き過ぎたり、神経質過ぎたりする保護者は増える傾向にあるようです。背景には、家族構成の変化や地域のつながりの希薄化などにより、子どもと接する機会がほとんどないまま親になってしまったり、近所付き合いなどを通して親としてのモデルを見る機会が少なかったりすることがあるのでしょう。またインターネットには育児に関する情報があふれていますが、必ずしもポジティブな影響のあるコンテンツばかりではないことにも注意が必要です。
保護者の神経質過ぎる言動はお子さまに伝染してしまう
それでは、神経質過ぎる子育ては、子どもにどのような影響をもたらすのでしょうか。
心理学に「社会的参照」という言葉があります。これは、自分にとって未知の場面を理解するために、一緒にいる他者の表情や感情表現を手がかりにすることです。例えば、お子さまが転んだときに「大変! 大丈夫?」と大騒ぎしたら、お子さまは自分は大変なケガをしたと思って泣き出すでしょう。逆に保護者が「これくらい平気よ。パンパンと払っておきなさい」と落ち着いて話したら、すぐに立ち上がって遊び始めるはずです。そのようにお子さまは、保護者の言動には非常に敏感に反応します。保護者が神経質過ぎる場合は、その態度はお子さまに伝染してしまい、常にビクビクする過敏なお子さまになってしまうかもしれません。
もちろん、性格は表と裏がありますから、適度に神経質な場合は「慎重さ」「用心深さ」といったよさが表れる場合もあります。ですから、神経質であること自体が問題とは思いませんが、それが過度な場合はよくない影響が及ぼされる心配はあります。
それに心配や不安を取り除くために、外部から閉ざされたカプセルの中で守るようにして育てたら、お子さまはいつまでも1人で生きていくことができません。時には失敗したり、転んだり、小さなケガをしたりする経験が人を強くするのです。ですから育児では、過度に失敗を避けるのではなく、いかに失敗から立ち直るかを教えるという視点をもっていただきたいと思います。
不安や心配が止まらないときは感情をマネジメントする努力を
しかし、神経質過ぎる保護者のかたは、そうした理屈はわかっても、心配や不安が止まらない状態かもしれません。そういうケースでは、自身の感情のマネジメント力を高めることが必要です。そのためには、「今、自分がどのような感情であるか」を見つめたうえで、「どうして、その感情になったのか」をよく考えます。例えば、不安でたまらない場合、その不安が生じた原因を冷静に考えてください。原因がわかれば、漠然としているより、少し気持ちに余裕ができます。次に原因を取り除ける術をあれこれ考えてみます。原因を考えるうちに「こんなことで不安になるのはばかげている」と感じるかもしれません。もし、できそうな解決法が見つかったら試してみます。漠然とした気持ちに翻弄されず、自分の感情を見つめ直し、対応できることが感情マネジメントの基本です。
神経質になり過ぎる保護者のかたは、子どもの気持ちより先に自分の気持ちで動いてしまいがちです。「お腹がすいたでしょう。食事を作ったよ」「ケガをしないようにおうちで遊ぼう」といった調子です。予防は大切ですが、過度に期待や心配をすると、お子さまの意欲をそいでしまうこともあります。子ども自身のレジリエンス(粘り強さ)や今後困難に立ち向かうための勇気を育てるためにも、まずは子どもの様子をよく見て、どんな危機があり、どのように乗り越えたらよいかを伝えましょう。他の保護者と情報交換したり、経験を共有することはまた、育児をするうえで大きな心の支えとなるに違いありません。