好奇心、世界を広げる ~作家 三浦しをんさんに聞く~
子どもの頃から本が好きでした
父は国文学者なので、書斎には本がいっぱい。私は書斎に入っては広辞苑を取り出し、床に座ってめくっていました。幼稚園ぐらいの頃ですから、まだ読めはしません。広辞苑の分厚さや重み、紙のひんやりした感触やインクのにおいが好きでした。
中学生になると、辞書に載っている仏像の図版を、ノートに模写していました。大日如来とか、不空羂索観音(ふくうけんじゃくかんのん)とかを気の向くままに。それが楽しかった。
語彙を豊富にするには、好奇心を伸ばすこと
作家になってからは、ますます辞書を手放せなくなりました。新しい辞書を買えば、エッチな言葉を調べます。どう説明しているのか知りたい好奇心というか下心、欲望ですね。調べる時は、目的の言葉に行き着くまでに、別の言葉や図版にも寄り道します。その度に、まだまだ知らない世界があるな、と気づかされる。
小説を書く時は、すごく考えて言葉を選び、場面によっても使い分けます。「とても喜んだ」と書くか「欣喜雀躍(きんきじゃくやく)した」と表現するかなど、辞書を引いて、微妙なニュアンスを考えて決めます。大切なのは、多くの人に同じ意味に取ってもらえるような言葉を選ぶこと。でないと、自分の思いは正しく伝えられません。そのためにも、語彙は豊富な方がいい。
何を見ても「きれい」「かわいい」と言うだけでは、気持ちは伝えきれません。知っている言葉だけでいい、通じる人とだけ通じ合えればいいと考えていたのでは、語彙は増えないでしょう。
語彙を豊富にするには、好奇心を伸ばすことです。子どもの好奇心を育てるのは、大人の責任です。興味を伸ばして「知る楽しさ」を感じさせる。そうしないと、「マジうぜえ」のひと言で会話が終わってしまう若者ばかりが育ってしまう。
コミュニケーション力は、読解力
私の語彙も、それほど多くはありません。でも、多くありたい。知らない世界を知りたいと願う好奇心は、持ち続けています。
コミュニケーション力は、読解力なのだと思います。読解力とは文章を読み解くことだけじゃない。相手が何を考えて語り、行動したのか、言葉だけでなく表情や身ぶりも含めて読みとることです。
私も、例えば編集者から「なんとかなりますよ」と言われると「原稿が遅くて怒っているのだろうか」などと、言葉の裏を読もうとする。でも、時にそれは的外れだったり、空回りだったりします。読解力って、ものすごく大事です。
お互いに行き違うこともありますが、言葉は、相手を傷つけ怒らせるためではなく、通じ合うためにこそあるのです。「お前も俺も、存在してよし!」と思うために。だからこそ「もっと語彙を広げよう」と、前向きに考えることが大事なのではないでしょうか。
検定受検をきっかけに好奇心を伸ばして
検定の受検をきっかけに好奇心を伸ばして、「新聞をよく読もう」とか「知らない分野にも関心を広げよう」と考えてみるのもいいでしょう。
もし、検定で初めて出合った言葉があって、その時は意味がわからないまま終わってしまったとしても、その出合いは頭に残ります。別の機会に、またその言葉に触れれば「これ、見覚えがあるな」と思い出す。そんな出合いを繰り返して、言葉はだんだん自分のものになっていくのです。
※この記事は、2012年8月20日の朝日新聞をもとにしています。
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『語彙・読解力検定』公式サイト
http://www.goi-dokkai.jp/