慶応義塾大学 環境情報学部(2) 好きなこと=社会に貢献できることを見つければ人生が変わる[大学研究室訪問]
日本が転換期を迎えた今、大学や学部をどう選び、そこで何を学べば、お子さまの将来が明るく照らされるのでしょうか。訪れたのは、最先端技術を駆使して生命活動の理解に挑んでいる、慶応義塾大学の冨田勝教授の研究室。学生たちが最先端の研究に取り組む意義を語っていただいた前回に引き続き、言われたことを真面目にやっているだけでは幸せが約束されない時代を生き抜くために、高校生までにどんなことをすべきかなどについて伺いました。
■「筋トレ」だけでなく、好きなことに打ち込んで「実戦」経験を
言われたことを真面目にやっているだけでは幸せが約束されない--そんな時代を生き抜く力を付けるには、高校時代までにも、好きな分野に思いきり打ち込んで自分なりに勝負してみることが大切です。教科書の勉強は、スポーツに例えれば「筋トレ」のようなもの。確かに必要ではありますが、筋トレだけでは試合には勝てません。教科書の内容に縛られず、好きな分野に打ち込み、疑問を解消するために調べたり考えたりする経験が、社会に出た時に臆せずに難問に挑み、乗り越えていく力にもつながります。
自由研究が絶好の機会です。夢中になって取り組んでいたら、夏休みなどだけでなく普段から、じっくり研究するように導いてあげてください。今は高校生を対象に、科学の研究に関するさまざまなイベントやコンテストが行われ、大学で最先端の研究にふれたり、まるで野球部員が甲子園をめざすように、科学というフィールドで競い合ったりしています。保護者のかたはぜひ、お子さまが興味を持つ分野でそうしたイベントが行われていないかを調べ、参加させてみてください。
好きな自由研究に打ち込み、AO入試で自分を売り込め
「好きなことに打ち込んでいたら受験勉強がおろそかになり、大学に合格できない」と心配するかたもいるでしょう。残念ながら確かに、現在の大学の一般入試は、ひたすら教科書の勉強をして、ペーパーテストで1点でも多く稼いだ生徒が勝つルールになっています。教科書の勉強が好きな生徒にはよいですが、多くの生徒は疲弊してしまいます。しかし、大学に入る道は一般入試だけではありません。書類や面接で総合的に人物を評価するAO入試なら、自分の興味を生かして大学を受験できます。私たちSFCの環境情報学部と総合政策学部は1990年に日本で初めてAO入試を導入しました。現在では400を超える大学がAO入試を導入しています。
日本ではAO入試で大学に入学する生徒はまだまだ少数ですが、臆することはありません。カギは大学や学部選びです。偏差値に惑わされず、各大学でどんな研究をしているのかを調べ、お子さまが「ここで研究したい」という研究室を見つけてください。AO入試の受験生でも、そこで行われている研究に本気で打ち込みたいと思っている人は実はあまり多くはありません。だからこそ、本当に興味を持って研究してきた高校生なら、書類や面接で評価され、大学のほうから「ぜひ来てください」と言われるでしょう。
AO入試は複数の大学を併願することも可能です。しかし、周りが一般入試の勉強に明け暮れているので、みんなと違うことをするには勇気が必要です。まさに親の度量が問われているといっても過言ではないでしょう。
■ヒトという生物には「社会に貢献したい」という本能がある
福澤諭吉の言葉に「国を支えて国を頼らず」があります。次世代の人財に育んでおきたいのが、社会に貢献しようという志です。世の中に貢献するために、必ずしも自己犠牲を払う必要はありません。社会に貢献した「対価」としてお金をもらうのであればぜひ大金持ちになってください。ヒトという生物には社会に貢献したいという本能があります。そして、「好きこそものの上手なれ」という言葉があるように、自分の得意なことをやりたい、そして自分の能力を最大限発揮したい、という本能があるのです。それを見つけて仕事にできれば、自分も周りの人たちも幸せにでき、人生が大きく開けます。
一方、自分が得意な分野を見つけるのは容易ではありません。好きだと思って打ち込んでも、興味を深められなかったり、得意ではないとわかったりすることもあります。しかし、そう気付いたら他の分野を探せばいい。そんな試行錯誤をするためにも、教科書の勉強だけでなく、好きなことに打ち込む経験が必要です。そして大学もまた、そうした場であるべきです。好きなことに打ち込む環境を用意し、迷った時には励まして、見守り、最も社会に貢献できる分野を見つけるよう導く--それこそが教育のすべてだと、私は思います。
研究室の風景。学生は一緒に研究に取り組む一人前の研究者として扱われる。冨田教授に対しても「先生」ではなく、「冨田さん」と呼ぶ。
学生に聞きました! |
石野響子さん(2011年入学、神奈川県出身) 高校の教室でふと手にした冊子からすべてが始まった 私は高校2年生の時、学校の教室に置いてあったある冊子をたまたま手にしました。科学技術振興機構が主催しているスプリングサイエンスキャンプ(SSC)というイベントの紹介冊子で、さまざまな大学や研究施設で研究体験をすることができると知り、昔から生命科学に興味があった私は、慶応義塾大学の先端生命科学研究所のプログラムに参加することにしました。その名のとおり最先端の施設が整っている施設で、とても充実した日々を過ごせました。 その時、初めて出会った冨田さんからいただいた、「テストのための勉強はもうやめよう。好きなことをするために好きなことを勉強しよう」という言葉に衝撃と感銘を受けました。この教授の下で研究をしたいと決意しました。そして、AO入試を受けて環境情報学部に入ることができたのです。今は、生命科学に関するさまざまな分野の第一人者に囲まれ、仲間たちと励まし合ったり、悩みを打ち明けたり、時には本音をぶつけてディスカッションしたりと、縦にも横にも強いつながりの中で、刺激を受けながら好きな研究に打ち込めています。 今の私があるのは、高校2年生の時、冊子を見て自ら行動を起こしたことがきっかけです。私は勉強に限らず、「おもしろそう」「楽しそう」と感じることがあったら、行動を起こすことを大切にしています。その原動力は両親に育てられたものだと思います。幼いころにはよく博物館や美術館に連れて行ってくれ、おもしろそうなイベントがあると積極的に参加するようすすめられました。SSCがきっかけで環境情報学部に行きたいと打ち明けた時も「やりたいことができるところがいちばん」と言って、AO入試の対策などを積極的に行ってくれました。そんな両親に、私は心から感謝しています。 |