流通経済大学 流通情報学部 流通情報学科 (2) 身近なモノと世の中とのつながりを知っておくことが、大学での学びにも社会人になってからも生かされる[大学研究室訪問]


日本が転換期を迎えた今、大学や学部をどう選び、そこで何を学べば、お子さまの将来が明るく照らされるのでしょうか。訪れたのは、モノや情報の最適な流れを管理する「ロジスティクス」が専門の、流通経済大学の矢野裕児教授の研究室。前回に引き続き、今回は、大学で学んだことが社会でどう生かされるか、そのために高校時代までに何をすべきかなどについて伺いました。



■一般にはあまり重要だと思われていないからこそ、学生時代に身に付けておけば大きな武器になる

たとえばコンビニ弁当は、世界中から食材が集められ、工場で弁当が作られ、ケースに詰められ、皆さんの家の近くの店に運ばれています。おいしい弁当を皆さんが食べられるのも、ロジスティクスが進み、すべてのモノや情報が順調に流れているおかげです。ディズニーランドでは、食料品やお土産など、毎日、たくさんのモノが運び込まれ、逆に大量のゴミなどが運び出されています。でも、もしもそんなところを目にしたら、夢の世界にいる気分が幻滅してしまいますよね。だから、こうしたモノのやりとりを、すべて地下の見えないところで行っています。これも、ロジスティクスの一つの例です。このように、ロジスティクスは、気付かないうちに、私たちの生活のあらゆる場面で、さまざまな形で生かされています。そんなロジスティクスを学べば、さまざまな職場で、社会のしくみを支えたり、より便利で快適なしくみをつくったりするのに役立てることができます。

しかし、大学でロジスティクスを学問として扱うようになったのはごく最近で、まだ学べる大学数も少なく、世間ではあまり重要だと思われていません。企業のロジスティクスに関連する部署で働いているかたからも、「社会人になってから初めて重要性を知りました」という声をよく耳にします。そんなロジスティクスについて学生時代からしっかりと学んでおくことは、社会人になった時に大きなメリットになると思います。



コンビニで冷えたペットボトルの飲み物を、たくさんの種類の中から選び、レジで買う。そんな、ふだん何気なくやっていることの裏側にも、ロジスティクスが隠れている(流通経済大学広報誌「RKU Today」第20号 2012年7月号より転載)


■日本の「大学のロジスティクス」は発展途上、「企業のロジスティクス」は世界トップ

世界に目を向けると、「大学でのロジスティクス」が、日本よりも盛んな国がいくつもあります。代表的なのが中国で、ロジスティクスを国が成長するための重要なポイントととらえ、国家戦略として取り組んでいます。大学でロジスティクスを専門的に学ぶ学生の数が約5万人以上といわれています。日本はまだ1000人くらいですから、大きな差があります。

しかし、「企業のロジスティクス」という点では、日本は世界のトップクラスです。中国の大学では、ロジスティクスを教える際に、日本のように企業を訪れて現場で学ぶのではなく、日本や欧米の書物を翻訳して使っています。しかし、書物だけから学べることには限界があります。私の研究室に来ている中国からの留学生は、日本がうらやましいと言っています。日本の学生は、子どもの頃から知らず知らずのうちにロジスティクスの成果を感じながら生活しています。そんな経験に加え、大学で企業を訪問して知識を深められることは、大きなメリットです。



■食べ物、服、電化製品など、身近なモノが自分の手元に届くまでの流れを調べよう

高校時代までにやっておくといいのは、自分に身近なモノがどうやって手元に届くのかを、調べてみることです。好きな食べ物、服、テレビ、サッカーのスパイクなど、何でもかまいません。世界中のどこにある、どんな材料が使われ、どんなふうに製品になり、どうやって運ばれるのか、調べてみてください。

そうした経験をオススメするのは、大学でロジスティクスを学ぼうとする場合に限ったことではありません。学問は、社会とつながってこそ役に立ちます。しかし、大学の研究室にこもっているだけではそうした意識が抜け落ちてしまいがちです。高校時代までに、身近なモノと社会とのつながりを知っておくことで、大学に入ってからも、自然と、自分の研究と社会とのつながりを意識するようになるでしょう。そんな経験が、大学時代はもちろん、将来、社会に出た時にも役立つと期待できるのです。


OBに聞きました!

山本敦夫さん(2007年大学院修了、ティーエルロジコム株式会社勤務)

社会人時代に知ったロジスティクスの大切さ 大学院で学び直し、それを生かした仕事に

私は大学時代には、物流やロジスティクスについては専門的に学んでおらず、経営学部でアメリカの航空業界について研究していました。卒業後は、企業で物流に関する仕事を始めたのですが、そこで、ロジスティクスが社会の中で大切な役割を果たしていることに気づいたのです。改めて勉強し直したいという思いがふくらみ、会社をやめて大学院に進み、矢野先生の研究室で学びました。さまざまな企業の物流の現場を見せてもらったことは、刺激になりましたし、ロジスティクスについての知識や理解を深めることができました。

大学院を出たあとは、物流会社に就職しました。企業の物流についての課題を解決するのが仕事です。これまで、たとえば石油会社が利用者向けに発行する燃料カードの管理、トラックやフォークリフトのリース販売など、さまざまな形でロジスティクスに関わる仕事をしています。大学院時代に多くの現場を見た経験が生きていますし、企業を裏側で支えていることにやりがいを感じてもいます。

高校生の時は、深く将来のことまでは考えていませんでしたが、当時から、航空や貿易など、人やモノの流れに興味を持っていました。そのきっかけになったのが、父親に何度も海外へ連れて行ってもらったことです。海外に行くたびに長時間、航空機に乗るうちに、自然と運輸、貿易などに関心が広がっていきました。それが大学での航空に関する研究につながり、さらには大学院での研究や今の仕事にもつながっていると思います。

プロフィール



横浜国立大学卒業、日本大学大学院理工学研究科博士課程修了。日通総合研究所などを経て現職。必要なモノや情報を、適切な時に、適切な量や状態で届ける「ロジスティクス」が専門。内閣府「東日本大震災における災害応急対策に関する検討会」特別委員なども務める。

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