津田塾大学学芸学部 国際関係学科多文化・国際協力コース(2) 学生時代にしっかり勉強をした人こそ、責任を持って仕事に取り組める[大学研究室訪問]


日本が転換期を迎えた今、大学や学部をどう選び、そこで何を学べば、お子さまの将来が明るく照らされるのでしょうか。連載8回目に訪れたのは、国際社会で、世界の人たちと力を合わせて活躍できる女性を育てている、津田塾大学の三砂ちづる教授の研究室。大学で自分のテーマを見つけることの大切さなどを語っていただいた前回に引き続き、そんな経験が社会でどう役立つか、そのために高校生までにどんな経験をすべきかなどについて伺いました。



■真面目であることを妨げない雰囲気の中、自分をしっかりと見つめ、勉強に専念

私のゼミの、自分を見つめて自分のテーマを見つけ、自分の言葉で語るように導く教育は、津田塾大学の伝統を生かしたものといえます。津田塾には、真面目であること、一人でいることを妨げない雰囲気があります。女子大ですが、いつもグループができるとは限らず、昼食を一人で食べている姿もあちこちで見かけます。高校までは周囲の目を気にして過ごさなければいけなかったけれど、今はとても居心地がいいという学生が何人もいます。そんな環境だから、自分をしっかりと見つめ、勉強に専念できるのではないでしょうか。女子大であることも、学内では異性を気にせず、自分を見つめ直すのにはいいのかもしれませんね。

私自身は津田塾の卒業生ではありませんが、海外で仕事をしていたころ、国際的な舞台で活躍する津田塾出身の女性に何人も会いました。津田塾で教えるようになり、彼女たちの活躍はここで地道に勉強に励んだことに支えられているのだと感じました。最近は、大学生のうちに企業などで働くインターンシップがもてはやされていますが、学生時代は勉強に打ち込むほうがよいのではないでしょうか。人生でなにより大切なのは、その時やるべきことに真摯(しんし)に取り組むことでしょう。学生時代にしっかりと勉強をした人こそが、社会人になってから責任を持って仕事に取り組めると思います。津田塾が高い就職実績を誇っているのも、そうした点が評価されているからではないでしょうか。



■1年生には毎週1冊、新書を読む課題を。本を読むことが大学の勉強の出発点

高校生までにしておいてほしいのは、「本を読む」ことです。大学での勉強の基本は、本を読むことです。しかし、最近の学生は、高校生までほとんど読んでいません。私が担当している国際関係学科の1年生向けのゼミでは、まず、これまで読んで印象に残った本を10冊紹介してもらうのですが、マンガや絵本を入れなければ10冊に満たない学生もいます。文系の学部に入って、「本が嫌い」とか「本を読みたくない」なんてしゃれにもなりません。

ゼミの1年生全員に「毎週1冊、新書を読む」課題を出し、くじ引きで毎週1人に本の内容を発表してもらいます。忙しくて読めなくても、読んだふりをして発表してもらいます。毎週、たくさんの新書の背表紙を見ながら、自分が興味をもてる1冊を選び、読めなくても他人に紹介できる程度には内容をチェックする。それを1年間くり返すうちに、本を読めるようになります。本は、お金を出して買うことをすすめています。1年生が終わるころには50冊以上の新書が本棚に並び、「これだけの本を読んだんだ」という達成感と共に、大学生になった実感を持てるし、さらに専門的な本にもつなげられるようになります。高校生のうちには、新書でも小説でもかまいません。本を読む習慣を付けることが、大学の勉強への出発点になります。



■高校生までに生活習慣を身に付け、心も体も健康に。それが大学で勉強に打ち込むための基礎になる

津田塾大学小平キャンパス内にある三砂先生の研究室にて。たくさんの本や資料に囲まれた畳敷きの部屋に和服姿。学生たちを厳しくも温かく導いている様子が浮かんでくる。

保護者のかたにお願いしたいのは、高校生までの間に基本的な生活習慣を身に付けることでしょうか。食事は朝・昼・晩、基本は家で食べ、夜になれば寝て、朝になったら起きる。高校生までにそういう生活の中に身を置いていれば、たとえ自分で料理を作っていなくても、一人で住むようになってからは自分でごはんを作り、規則正しく、健康的な生活を送れるようになります。それが、自分がやりたいことをやったり、勉強に打ち込んだりするための基礎になります。生活が乱れて体調を崩しがちな人は、なかなか集中できないものです。

心の面でも同じことがいえます。家庭環境に葛藤を抱えていたり、無理をして「いい子」を演じてきたりした人は、大学に入ってからそのつらさによるひずみが出てしまう場合もあります。私のゼミの名前にもなっている「ウェルネス」とは、津田塾が開学以来、体や心などあらゆる意味で女性が「よく生きる」ことを追求してきた伝統に沿ったものです。自分を見つめ、自分のテーマを追うことを学ぶことは、そうした課題を乗り越えて、学生たちが社会に出る準備をすることでもあり、それが大学の大きな役割でもあると思っています。できれば高校生までも、そうした「心の弾力」のようなものを大切に、よりよい毎日を送ってほしいし、保護者の皆さまにも、サポートをしていただきたい、と願っています。


学生に聞きました!

中村 友香さん(2010年入学、千葉県出身)

両親に本を買ってもらったことが、大学での学びに役立っている

三砂ゼミでは、毎月第1火曜日の夜、合宿形式の「エンドレスゼミ」を行います。1期生から代々続いていて、ゼミの時間の中では質問、議論しきれなかったそれぞれのメンバーのテーマについて議論したり、おすすめの本についてのプレゼンをしたり、先輩のフィールドワークの体験談を聞いて学んだりします。さまざまなテーマを持つゼミ生を知り、他の人のテーマについて話を聞き学ぶことによって視野が広がりました。そんな経験を経て、私は、人間に振りかかる不幸や災いについて考える「災因(さいいん)論」をテーマに選び、ネパールの病院の患者が、何を災いと考え、どのように解決しようとしているかを、フィールドワークを通じて調べています。

三砂先生は学問上のアドバイスの他に、生き方についてのアドバイスもくださいます。特に印象に残っているのは、「開かない扉は今行くべきではない道です」という言葉です。これは、私ではなく留学の試験に不合格だったゼミ生にかけた言葉ですが、「一生懸命がんばったにもかかわらずうまくいかないこともあるけれど、それは自分の能力が劣るからでも努力が足りなかったからでもない、その道ではなくより自分に行くべき道があるからだ」という意味が、私の心にも強く響き、励まされました。

私は高校時代、生徒会活動に打ち込んでいました。そこで培った、理論的にものを考え、自分の意見を持ち、それを相手に説明する姿勢は、大学での自主的な学びにとても役に立っています。また、私は小さいころ、両親から本をたくさん買ってもらっていました。大学での学びは、自ら本を読み先人から学び興味を持つことから始まり、疑問を持ってまた文献にあたり、調査をして、最後にはまた文献をもとに考察をしていくことだと思います。両親に本を買ってもらい、幼いころから本を読む習慣が付いたことは、そんな大学での学びにとても役立っています。


プロフィール



京都薬科大学卒業。専門は疫学、母子保健。ロンドン大学衛生熱帯医学院研究員やJICA疫学専門家として約15年間、疫学研究や国際協力活動に従事。国立公衆衛生院(現・国立保健医療科学院)勤務を経て現職。著書に『不機嫌な夫婦』(朝日新書)など。

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