算数に楽しく取り組めるようになるにはどうしたらよいか[中学受験]

平山入試研究所の小泉浩明さんが、中学受験・志望校合格を目指す親子にアドバイスする実践的なコーナーです。保護者のかたから寄せられた疑問に小泉さんが回答します。




質問者

小6女子(性格:論理的なタイプ)のお母さま


質問

中学入試レベルの算数の文章題は、考えることから逃げてしまい実力が付きません。どうしたら、楽しく取り組めるようになるのか教えてください。


小泉先生のアドバイス

楽しく取り組めるまでに力を付けるには苦しい時期が必要なので、苦しさを最小にして乗り越えさせる。

「どうしたら算数に楽しく取り組めるようになるのか」というご質問ですが、逆に、「なぜ楽しく取り組めないのか」を考えてみましょう。そもそも、子どもたちにとって算数は楽しいものなのでしょうか? あるいは、つらいものなのでしょうか?

実は、少なくとも少し前までは楽しいものだったはずです。ここでいう「少し前」とは、小学校に入って算数を習い始めたころです。そのころは、ほとんどの子どもたちは算数が好きなようです。それは、やさしい計算を行い、正解が出ればほめられるからです。
でも、徐々に計算が複雑になり、しかもいろいろな約束事が出てくると、少しずつ算数が苦手な子どもが出てきます。そして塾に入って、さらに複雑な計算問題や文章題、あるいは図形問題を習っていくと、苦手とする子どもはますます多くなります。なぜなら、一生懸命考えても解けないからです。人は、自分が簡単にできることをやらされ続けると飽きてしまいますが、できないことをやらされても、やはりあきらめてしまいます。いちばんよいのは、自分の実力よりちょっと難しいくらいのものを、少しずつハードルを上げてやっていくことです。解けるだろうという期待と、解けた時の達成感は楽しく取り組むための条件といえます。

このように考えると、塾に入り始めのころの算数は少し厳しいかもしれません。特に、途中から入るなどしてクラスの子どもたちから遅れていると、かなり厳しいでしょう。そんな時、「なにくそ!」とがんばって問題をこなす馬力のある子どもは、比較的早くつらい状況から脱出できます。“楽しく解く”まではいかないまでも、それほど苦になることはないでしょう。
そしていよいよ6年生になって習うべき単元も一応終了し、志望校に挑戦できる程度の実力が徐々に付いてきたとしましょう。時期的には、恐らく6年生の11月から12月くらいでしょうか。志望校の過去問演習を行って、合格者最低点前後をとれるようになりたい時期ですが、そうなってくるとかなり楽しく取り組めると思います。というよりも、受験勉強を始めて以来、こんなに楽しく算数を勉強できている時期はないかもしれません。何しろ、今まで学んできた知識を使えば問題が解けて、しかも合格点がしばしばとれるのです。さらに、できない問題を解けるようにすることで、自分の実力がどんどん上がっていくことが実感できます。もちろん、その時期になっても志望校の問題があまり解けずに苦しんでいるようであれば、志望校への道は遠いということなのですが……。

さて、今回のご質問は「どうしたら楽しく取り組めるか」です。すでにおわかりだと思いますが、ある程度の実力が付いてこないと楽しくならないということです。そして、楽しく取り組めるまでに力を付けるには、やはり苦しい時期が必要でしょう。実力を付けるには、そういった時期が不可欠なのです。

これは勉強だけではなくなんでも同じで、たとえばスポーツでもピアノなどの習い事でも、ある程度つらい練習をして初めて力が付いてくるものなのです。もちろんつらさは人によって感じ方が違いますから、同じ勉強をしていても「ちょっと苦しいなあ」と思う人と、「苦しい、苦しすぎる。もう嫌だ!」と思う人はいるでしょう。でも、そのつらさの先に楽しさがあるのであり、そのつらさに耐えなければ決して見えてこないものなのです。あるいは、つらさに耐えて努力するというのもひとつの才能なのかもしれません。

それでは、つらさに弱い子どもはどうしたらよいのでしょうか? あまり苦しすぎると立ち止まってしまいますから、そのつらさを最小にして乗り越えさせることが大切です。乗り越えることで達成感を持ち、自分でもできるという自信を付けるのです。そのためには、算数であれば単元を1つ決めて、その単元をとにかく得意になることだと思います。やるべきことが大量にあるとその膨大さに嫌気がさします。ですから、とりあえずこれだけでよい、とやるべき範囲を小さく区切り、集中してそれをマスターさせます。やり方さえわかれば、そんなに難しくなかったと思えるでしょう。そして、1つの単元が得意になったら、次々と得意な単元を広げていくのです。試験までに間に合うかが問題ですが、やり遂げなければ志望校への道は広がりません。

もっと早い時期から積み上げていけば楽だったと思いますが、後悔するだけでは何も始まりません。やろうと思った今、その時から始めればよいのです。そして、やる時は「とにかくこれだけやろう」とそれに集中したほうが気楽でしょう。これからやらなくてはならない大量の学習内容を眺めながらぼう然とため息をつき、結局何もやれずに今日一日が終わるよりもはるかに建設的です。

一つひとつ片付けていけば、思ったよりも早く終わるものです。あきらめることなく、できることを一つひとつ片付け、できるようになったことを喜ぶ、という姿勢が楽しく取り組めるようになるコツなのだと思います。



プロフィール


小泉浩明

桐朋中学・高校、慶応大学卒。米国にてMBA取得後、予備校や塾を開校。現在は平山入試研究所を設立、教材開発など教務研究に専念。著作に「まとめ これだけ!国語(森上教育研究所スキル研究会)」などがある。

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