虫にまで気を配った江戸の武士〜歴史にひそむ学ぶ楽しさ
日本が転換期を迎えた今、大学も大きな変革の時期を迎えている。子どもは将来のために何を学び、そのためにどのような大学や学部を選べばよいのだろうか。その答えを求め、今回は江戸時代の歴史を研究するとともに、教員を育成している東京学芸大学の大石学教授の研究室を訪れた。
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大石教授の研究室では、どんな研究をしているのですか?
主に教員志望の学生たちが、江戸時代の歴史を学んでいます。「教員自身が学ぶ楽しさを実践してこそ、学生たちにも学ぶ楽しさを伝えられる」という考え方です。
具体的には、江戸時代の人々の手紙や日記、公務の記録、訴状などの古文書を読み解き、当時の様子を解明します。学生たちには難解な作業も多いですが、何百年も前の史料に初めて接したワクワク感や喜びに突き動かされ、古文書の山と格闘することで、読み解く力をつけています。
自分で古文書を読み解くことと、すでに周知の史実を学ぶことの違いはなんでしょうか?
たとえば、江戸幕府の5代将軍徳川綱吉が下した「生類憐れみの令」のマニュアル本のようなものがありました。今までは、犬などの動物を過剰に保護するお触れに対して不平を抱く庶民の姿ばかりがクローズアップされていましたが、前田家の古文書からは、江戸城に勤める武士の虫にまで気を使って生活していた様子が浮かび上がってきました。
また、天下の悪法といわれたこの法律にある「犬を斬り殺してはいけない」というのは現代人にとっては当たり前のこと。「自然と動物との共生」を考えたお触れは、先進的であったともいえます。
マニュアルを懐に忍ばせて江戸城に勤めていた武士の姿は、今のサラリーマンにも通じます。武士以外にも町民や農民など、古文書から見えてくる江戸時代の人々の姿は、私たちにも共感できることが多く、新たな発見が学ぶ喜びを学生たちに教えてくれます。
出典:東京学芸大学 教育学部 初等・中等教育教員養成課程 社会科教室 現代日本の基礎は江戸時代に築かれた! 新しい歴史の姿を古文書から解明する醍醐味 -ベネッセ教育情報サイト