高校の世界史必修をめぐり異論続出

高校の学習指導要領では現在、世界史が必修科目となっており、すべての生徒が学ぶことになっています。来年春に告示が予定されている高校の新学習指導要領でも、世界史は必修科目として位置づけられる見通しです。
ところが、その世界史の扱いをめぐって、教育関係団体などから異論が相次いで出されています。また、政府の規制改革会議は、規制緩和という観点から世界史の必修に反対しています。高校における世界史の扱いは、どうあればよいのでしょうか。

世界史が必修となったのは、1989(平成元)年に告示された、今よりも一つ前の学習指導要領(94(同6)年度入学生より実施)からです。国際化社会の進展に向け、世界で活躍する人材を育成するためには世界史的な知識が不可欠だ、という理由でした。
しかし、高校現場では「なぜ世界史なのか」という不満が根強く残りました。この背景には、日本史などに比べて大学入試で世界史を選択する生徒が少ない、ということがあります。2002(平成14)年に公立学校の完全学校週5日制が導入されてからは、全体の授業時間数に余裕がなくなったこともあり、世界史を学んだことにして、実際には違う科目を生徒に履修させるということが進学校を中心とする一部の高校で密かに行われていたことは、いわゆる「未履修問題」として昨年末に全国的なニュースとなりました。
全国高等学校長協会などは、世界史を選択にしてほしいと中央教育審議会に要望しています。さらに規制改革会議は、どの科目を必修するかは学校現場の裁量に任せるべきだという規制緩和の観点から、世界史のみを必修にすることに異論を唱えています。

内閣府が12月初めに実施した電子メールによる「学習指導要領に関するアンケート調査」の結果によると、地理歴史科3科目のあり方については「地理・日本史・世界史では全てを必修とする」41.1%、「地理・日本史・世界史では、この中から2科目を選択する」23.0%などで、「世界史のみを必修」とするという意見は5.6%でした。

「小・中学校では日本史を中心に学習しており、国際化社会を生きるためにはすべての生徒が高校で世界史を学ぶ必要がある」という文部科学省、「大学受験という現実問題を考慮し、学校現場の裁量に任せてほしい」という高校の校長会、規制緩和のために世界史のみの必修に反対する規制改革会議……。それぞれの主張には、いずれも肯定できる部分があります。

大学入試のために高校教育があるわけではありませんし、すべての生徒が国際社会で活躍するわけでもありません。しかし、高校段階できちんと学習しておかなければ、体系的に世界史を学ぶ機会が高校卒業後の実生活ではほとんどないことも確かでしょう。世界史の扱いをどうするかは、なかなか難しい問題です。

プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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