学校統廃合は誰のため? ‐斎藤剛史‐

一部の人口増加地域を除けば、少子化により公立学校の統廃合は、多くの市町村で課題となっています。学校の統廃合は時代の流れとも言えますが、一方で学校は地域の象徴でもあり、統廃合には地元の反対がつきものです。国立教育政策研究所がまとめた公立小学校に関する統廃合の研究報告を基に考えてみたいと思います。

市町村教委が公立小中学校の統廃合を打ち出す主な理由は「子どもが少なくて、適正な教育環境が維持できない」というものです。これに対して、保護者や地元住民が学校存続を求めて激しい争いになるケースも少なくありません。保護者や地元住民の間には、市町村の予算支出を軽減するために廃校にされるのではないかという意識、言い換えれば、財政事情のために自分たちの学校が切り捨てられるという思いがあることも否定できないでしょう。
そこで同研究所は、公立小学校の統廃合による人件費削減効果のシミュレーションの研究報告(外部のPDFにリンク)をまとめました。小学校2校を1校に統合する場合は数千万円規模、3校以上を1校に統合する場合は数億円規模の人件費削減効果が見られるという結果が出ました。やはり学校統廃合は、経費削減の効果があるようです。

ただし、「人件費削減効果が期待されるのは国と都道府県レベルであり、市区町村レベルではこの効果をさほど享受できない」とも指摘しています。公立小学校の学校の教員や事務職員のほとんどが「県費負担教職員」と呼ばれる存在で、給与など人件費は国が3分の1、都道府県が3分の2を負担しており、市町村には一切負担がないからです。そのため、学校統廃合によって削減される市町村の人件費は、事務職員・学校作業員・学校司書などを独自に配置している場合に限られます。小規模校を見ると、少ない子どものために校長をはじめ何人もの教員がいて大変だと思う人も多いでしょうが、市町村にはほとんど負担はありません。
しかし、学校があれば日々の光熱費など運営経費、消耗品などの物品費はかかります。研究報告は、それらの詳しい分析はしていませんが、昨年まとめられた別の研究報告のデータ(外部のPDFにリンク)を引用しながら、「統廃合で新たに生じるスクールバス等の費用で、逆に費用が増加する可能性も考えねばならない」として、「事業費部分の削減効果はさほど大きくないことが予想される」と推計しています。結局のところ、学校統廃合による市町村の財政的メリットは、あまりないというのが結論のようです。

ここで、財政的メリットがあまりないなら統廃合はやめるべきだと考えるか、それとも、適正規模など純粋に教育的理由で統廃合を議論すべきだと考えるかは、それぞれの立場によるでしょう。しかし、市町村にとって公立小学校の統廃合は財政的メリットがあまりないという研究成果は、学校統廃合をめぐる議論に大きな一石を投じることは間違いないと思われます。


プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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