「伝記」を読ませたい[こんな夏休み後半を過ごしてみては? 第3回]
「伝記」を読ませたい
私は、小学生・中学生の保護者のかたに向けた子育てについての講演することがよくあります。7月にも「わが子の未来を拓く子育て、つぶす子育て」という演題でお話しをしましたが、その中の1項目に「伝記を読ませてください」というものを入れました。
その際、まず私が月に1回ほど書いている日本経済新聞の「親和力」というコラムに6月に書いたことを取り上げました。コラム自体はこのような内容です。
日本経済新聞には長い間続いている「私の履歴書」という人気企画があります。6月に登場したのは、女性としてはじめて日本物理学会の会長を務めた米沢富美子さんでしたが、彼女の話は強烈でした。「幼稚園児のときに『幾何』の面白さに目覚めた」というのです。5歳のとき、縁側で紙を広げてお絵かきに夢中になっていた富美子さんに、数学が得意だったお母さんが、「三角形の内角の和は2直角」と口ずさみながら、紙に三角形を描き、証明法を図解してくれたといいます。そのとき富美子さんは、「こんなに面白いものが世の中にあるのか!」と、雷に打たれたような衝撃に体が震えたそうです。
「私の人生には、おもちゃも色紙ももういらない。幾何があれば暮らしていける」--そう思ったのだそうです(5歳で!)
コラムの紹介の後は、次のような話を続けました。
このコラムが掲載された数日後、ある出版社から本が贈呈されてきました。その本の書名は『伝記 人物ものがたり そのとき何歳?』(講談社)。子ども向けの本ですが、「0歳でピアニストの違いを聴き分けた 辻井伸行さん」から「12歳のとき図書館で点字本と出会った 多和田悟さん」「18歳でいじめを克服するため、ボクシングを始めた 内藤大助さん」まで50人が載っていました。
こうしたものを読むと、小さい頃の経験がいかに大切なものであるかがわかります。時間のある夏休みには、ぜひとも「伝記」を読ませてあげてください。
伝記の項目でお話しした内容は、以下のようなことでした。
伝記というと、すぐ思い浮かべるのはいわゆる「偉人」ではないでしょうか。私の年齢
ですと、キュリー夫人とか野口英世などがすぐに思い浮かぶのですが(古いですね!)、
何もこうしたむかしの偉い人でなくてもいいと思うのです。
お子さんが関心を持っているジャンルの人でかまいませんから、その人の生い立ちなどを書いたものを読ませてほしいと思います。ひとかどの人は、皆すごい努力をしてきたのだということを、お子さんに知ってもらうことに意味があるのです。