受験指導の評価は大学合格実績ですべきか[中学受験]

志望校選定では、生徒本人の偏差値で入学できる可能性のある偏差値の学校の中から、「我が子に合った学校」を選定する。学校の評価は学校偏差値で行うが、「学校偏差値とは何か」「どのように決めているか」などに疑問を持つ受験生・保護者は少ないと思う。一般的には、受験生・保護者は偏差値を難易度の基準として捉えているのではないか。難易度の根拠は、模試受験者の偏差値と志望校というのが大きな要素ではあるが、それだけでない。
 
<グラフ1>は首都圏模試の学校偏差値で作成した。2011(平成23)年中学校入試の学校偏差値と同じ年の大学合格実績(GMARCH=学習院・明治・青山学院・立教・中央・法政)の関係をまとめたものだ。<グラフ1>を見ると、ほとんどの学校は近似曲線の周辺にあり、学校偏差値と大学合格実績は明確に対応しており、中学校入試で偏差値の高い学校を志望することは、大学合格実績の高い学校を志望していることになる。大学合格実績の高い学校に入学すれば、将来、我が子もレベルの高い大学に合格できると考えることができる。

大学合格実績は、学校が行った受験指導の結果ではあるが、少々疑問がある。<グラフ2>は中学校入学から6年間で学力を伸ばした学校の例だが、ほとんどの学校は近似曲線の周辺にあり、入学した当時の学力(中学校入試偏差値)と卒業時の学力(大学合格実績)は近似曲線で対応していることがわかる。つまり、入学した当時の学力が同じなら卒業時の学力も同じことになる。これは、学力を伸ばせていないということではなく、他校よりも伸ばすことがむずかしいということだと思う。各学校は大学合格実績を向上させるためにさまざまな受験指導を行っているので、当然、生徒の学力は向上しているが、どの学校でも多大な努力をしているため、大学合格実績はあまり変わらないことになる。結果だけを見ると、大学合格実績は、入学時の生徒の学力に依存していることになるが、近似曲線から外れている学校もある。

<グラフ2>をよく見ると、曲線の上部に「4」「8」「9」「11」の学校があり、学力を伸ばした学校が4校(25%)あった。逆に、曲線の下部に1校あった。しかし「16」の学校は偏差値が60で、早慶上理(=早稲田・慶応・上智・東京理科)の合格実績が多く、GMARCHが少なくなる傾向がある学校で、一概に伸ばし切れなかったとは言えない。学力を伸ばした学校が25%もあると考えるか、25%しかないと考えるかは考え方次第だが、学校偏差値の40、45、50付近にうまく分散しているので、数は少なくとも受験生本人の学力に近い学校を選択しやすい。共学校でも同じように、学力を伸ばした学校があれば、志望校として選定する可能性が広がることになる。「将来の進路としての大学」や「生徒の質が高いこと」など総合的な学校の評価は、大学合格実績で行っても良いが、受験指導の評価は、大学合格実績ではなく、入学した当時の学力と卒業時の学力の差である学力の伸びで行うべきではないか。


【グラフ1 2011(平成23)年大学合格実績と同じ年の中学入試偏差値の関係 神奈川の女子校(学校偏差値60以下)】




【グラフ2 2011(平成23)年大学合格実績とそれを出した卒業生の中学入試偏差値の関係 神奈川の女子校(学校偏差値60以下)】



プロフィール


森上展安

森上教育研究所(昭和63年(1988年)に設立した民間の教育研究所)代表。中学受験の保護者向けに著名講師による講演会「わが子が伸びる親の『技』研究会」をほぼ毎週主催。

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