入試制度改革と「人間力の指導」[中学受験合格言コラム]

入試制度改革と「人間力の指導」

5年後の大学入試制度改革として、政府の教育再生実行会議がまとめた案は、いわば「点数主義から人物本位の選抜への転換」ということだ。これは現在行われている推薦・AO入試に近い。今や、私立大学の入学者は5割以上が推薦・AO入試での合格者となっているが、難関大学や国公立大学では、まだ一般入試が主流である。入試制度改革では、難関大学や国公立大学でも推薦やAO入試が増えるということにつながる。ただし、学力検査が前提となる。ちなみに東京大、京都大は2016年入試より推薦入試を導入する。

人間力で受験勉強に自主的に取り組み、大学合格実績を高めようとする教育改革を、ある鎌倉の女子校が始めて3年になる(なお、ここでは「社会人基礎力と人間性」を人間力と定義する)。資料からもわかるように社会人基礎力を指導するシステムとして完成に近付いており、数年後には大学合格実績が飛躍的に向上する期待が持てそうだ。というのも、そこでは、この教育改革で思わぬ効果が出ているからだ。2013年12月15日の時点で、普通科普通コースから上智大学外国語学部ドイツ語学科、音楽科からお茶の水女子大学文教育学部に公募推薦で合格者が出た。これまで、普通科普通コースから公募推薦で早慶上智や難関国公立大学に合格した生徒はいない。それだけではなく、上智に合格した生徒は普通科普通コースで模試の偏差値で考えると、合格する可能性が低く、お茶の水女子大学に合格した生徒の場合、音大に進学するために、音楽を中心に勉強するコースに所属していた。

大学受験の一般入試では、記憶力・読解力・理解力・論理力などを試す学科試験が主流だが、学科試験で試せるのは人間の能力の一部である。大学受験の推薦・AO入試では、海外大学や就職試験と同様、学科試験はほとんどなく、向上心・探究心・思いやりの心などの人間性と行動力・思考力・協調性などの社会人基礎力を含む人間力で評価させる。

よく考えてみれば、海外大学入試と就職試験は、推薦・AO入試とほぼ同じ内容なのだ。就職のエントリーシートは推薦・AO入試の履歴書で、どちらにも面接と小論文がある。どちらの試験でも、受験者の人間性と社会人基礎力が評価される。在学中に一生懸命に取り組んだものがあるか? その取り組みでどのように自分の人間力を発揮したか? その人間力を生かし、海外大学・企業でどのようなことに取り組みたいか? をエントリーシート(履歴書)・面接・小論文で表現することも同じだ。海外大学・企業で、このような試験を実施するのは、海外大学・企業・社会に貢献できる人材を採用するためで、目的は国内大学でも同じだ。選抜の目的が同じであれば、入試制度改革により、大学入試が海外大学や企業と同じ選抜方法となるのは合理的ではないか。

これまで、中高一貫校が受験生・保護者から支持されたのは、出口となる大学合格実績を向上させるための学習指導を重視したからであった。今後、難関大学や国公立大学でも推薦・AO入試のような選抜方法が多くなれば、学力を付けるだけでなく、その入試形態に対応するための「人間力の指導」を行う中高一貫校が増え、それらの学校を支持する受験生・保護者が増えるだろう。



プロフィール


森上展安

森上教育研究所(昭和63年(1988年)に設立した民間の教育研究所)代表。中学受験の保護者向けに著名講師による講演会「わが子が伸びる親の『技』研究会」をほぼ毎週主催。

子育て・教育Q&A