生徒のやる気を引き出す学校は、生徒を伸ばす[中学受験]

2012(平成24)年中学入試では、全体的に受験者数は減少した。しかし、そのような状況でも、受験者数を増加させている学校はある。調査してみると、大学合格実績を向上させた学校が多かった。しかし、私学ではどの学校も大学受験には力を入れており、入学時の学力で6年後の大学合格実績はほぼ決まってしまう。学習指導だけで合格実績を向上させるのは限界があるが、生徒のやる気を向上させることで、合格実績を向上させることは可能だ。

以前、首都圏の中高一貫校161校でどのような受験教育を行っているかのアンケートを行ったことがある(表参照)。大学合格実績が急伸している学校とそれ以外の学校にどのような違いがあるか比較することで、大学受験対策としてどのような要素が大切かを知ることが分析の目的であった(以降、大学受験実績が「大幅に伸びている」学校を「急伸校」と呼ぶ)。難関校ランクでは、「急伸校」5校を含め33校をデータとして分析した。5校の内訳は、男子校が1校、女子校が2校、共学校が2校で教育方針も校風もまったく異なる学校であった。

分析では、「急伸校5校の共通点」と「急伸校でない28校と急伸校5校の差異」の要素を探すことから始めた。しかし、確かに急伸校5校に共通点はあったが、それらの共通点は急伸校でない28校でも見られ、「生徒の学習(量と質)」「教師」「教材」「カリキュラム」のような学習指導で、急伸校のみが持つ共通点は皆無であった。そのような共通点はないのではないかと、分析を諦めかけたとき、学習指導ではなかったが大学合格実績を大幅に伸ばしている5校だけの共通点を見つけた。

それは、「生徒のモチベーション(やる気)」対策であった。「生徒のモチベーション」対策についての下記のような質問A)~C)に対し5段階評価をしてもらった。
A)「生徒のモチベーション」対策には、進路指導部の合格実績目標を可能にする具体策が盛り込まれていますか?
B)「生徒のモチベーション」対策は計画通り実施されていますか?
C)「生徒のモチベーション」対策は、合格実績としての成果が出ていますか?
急伸校5校のうち4校が質問A)~C)のすべてで最高評価を、1校は控えめな評価をしたようで、質問A)~C)のすべてで最高から2番目の評価をした。急伸校でない28校の中では、1校のみがすべて最高評価であった。学校の担当者の主観的な評価ではあるが、大学受験合格実績を伸ばした学校とそうでない学校の違いが明らかになった (表参照) 。

受験生・保護者は学校を選定する時、どうしても「生徒の学習(量と質)」「教師」「教材」「カリキュラム」のような学習指導に注目してしまいがちだが、急伸校である5校は、これら学習指導に対する取り組みはさまざまであった。「生徒のモチベーション(やる気)」が高ければ、どのような学習指導でも、生徒を伸ばすことができるということなのだ。

【急伸校と「生徒のモチベーション(やる気)」対策(学校アンケートより)】

注1)A)~C)「生徒のモチベーション」対策の1~5は5段階評価
注2)「無効」:無効回答


プロフィール


森上展安

森上教育研究所(昭和63年(1988年)に設立した民間の教育研究所)代表。中学受験の保護者向けに著名講師による講演会「わが子が伸びる親の『技』研究会」をほぼ毎週主催。

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