東日本大震災からの1年間を振り返る

2011年3月11日に起こった東日本大震災は、揺れだけでなく巨大な津波によって東北地方から関東地方の太平洋沿岸地域に壊滅的な被害を与えました。福島第一原子力発電所の事故で大量の放射性物質が外部に漏れたことも重なり、被災地に限らず日本全体に大きな影響を与え、震災からの復興は、震災から1年たった今も、日本の大きな課題となっています。そこで今回は、震災からの1年間に起こった出来事について振り返ります。



東日本大震災からの1年間を振り返る

QA形式で見る基礎知識

マグニチュードとは?/津波の被害を大きくした原因とされる地形は?/飲料水や食品を通して放射性物質が体に入ることを何という?/電力使用の上限を決めた法律を何という?/原子力発電所を停止すると発表した国は?


時事問題を学ぶきっかけになる題材をQA形式でご紹介します。基本情報の整理に、親子で時事問題について話題にするきっかけに、入試・適性検査対策に、お役立てください。

Q1

2011年3月11日午後2時46分、岩手県沖から茨城県沖までを震源域とするマグニチュード9.0の東北地方太平洋沖地震が発生し、東日本大震災を引き起こしました。「マグニチュード」とは何のこと?


A.ある地点での地震の揺れの強さ
B.地震そのものの規模
C.原子力事故の評価の尺度


A1 正解は 「B.地震そのものの規模」 です。

マグニチュードとは「地震そのものの規模」のことで、数字が1大きくなると規模は約32倍になります。今回の東北地方太平洋沖地震(マグニチュード9.0)は、1923年の関東大震災を引き起こした関東地震(マグニチュード7.9)の約45倍、1995年の阪神・淡路大震災を引き起こした兵庫県南部地震(マグニチュード6.9)の約1450倍という大規模なものでした。
※マグニチュードには気象庁マグニチュードとモーメントマグニチュードの2種類があり、上の数値はモーメントマグニチュードで比較しています。

Aの「ある地点での地震の揺れの強さを表す数字」は「震度」で、弱いほうから順に「0」「1」「2」「3」「4」「5弱」「5強」「6弱」「6強」「7」の10階級あります。震度は、同じ地震でも地点によって異なり、震源に近いほど震度は大きい傾向があります。東北地方太平洋沖地震では、宮城県栗原市で、10階級のうち最大の「7」を記録しました。

震度と揺れ等の状況

0 人は揺れを感じない。
1 屋内で静かにしている人の中には、揺れをわずかに感じる人がいる。
2 屋内で静かにしている人の大半が、揺れを感じる。
3 屋内にいる人のほとんどが、揺れを感じる。
4 電灯などが大きく揺れる。
5弱 棚の食器類や本が落ちることがある。
5強 物につかまらないと歩くことが難しい。
6弱 固定しない家具の大半が移動する。ドアが開かなくなることがある。
6強 大きな地割れが生じたり、大規模な地すべりが発生することがある。
7 耐震性の高い木造建物でも、まれに傾くことがある。

出典:「震度と揺れ等の状況(概要)」(気象庁ホームページ http://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/shindo/shindokai.html )より作成。


Cの「原子力事故の評価の尺度」は、「国際原子力事象評価尺度(INES)」です。東日本大震災によって引き起こされた福島第一原子力発電所の事故は、最も深刻な「レベル7」に相当するとされました。これは、1986年に旧ソ連で起きたチェルノブイリ原発事故以来、世界で2例目のことです。


Q2

東日本大震災では、津波によって大きな被害がもたらされました。被災地となった三陸海岸では、過去にも何度も大津波に襲われ、大きな被害を出しています。その原因の一つとされる、三陸海岸特有の地形とは?


A.氾濫原(はんらんげん)
B.太平洋プレート
C.リアス式海岸


A2 正解は「C.リアス式海岸」です。

陸奥(現在の青森県の全域と岩手県の一部)、陸中(現在の岩手県の大半と秋田県の一部)、陸前(現在の宮城県のほぼ全域と岩手県の一部)にまたがる三陸海岸は、海岸線が入り組んだ複雑な地形をしています。このように地盤の沈降や海面の上昇により、海面下に起伏の多い山地が、沈んでできた地形をリアス式海岸といいます。

リアス式海岸は、津波が来る際、入り口が広くて奥が狭いことから、津波のエネルギーが奥に集中します。このため、三陸海岸では過去にも何度も大津波に襲われ、大きな被害を出してきました。そうした被害を防ぐため、防波堤を建設し、避難訓練などの対策を練ってきましたが、今回の津波の規模は想定を大きく上回るもので、防波堤を越えて安全とされた地域にまで押し寄せ、甚大な被害を生みました。

また、今回の津波は、リアス式海岸ではない宮城県南部や福島県の沿岸にも被害をもたらしました。この地域では平安時代の869年に大きな津波の被害に見舞われたという記録が残っています。今回の津波は、1000年に1度といわれるほどの大規模なものだったのです。

Aの「氾濫原」とは、洪水などの際に水があふれて氾濫する範囲の平野のことです。Bの「太平洋プレート」とは、太平洋の海底にあるプレート(地球の表面を覆う岩盤)のことで、今回の地震は、東北地方を含む北アメリカプレートと太平洋プレートとの間のひずみが原因のひとつだと考えられています。


Q3

東日本大震災により、東京電力の福島第一原子力発電所で重大な事故が発生し、大量の放射性物質が外部に漏れて汚染の危機が拡大し、周辺住民が長期間の避難を強いられ、被災地や周辺でとれた農畜産物が売れなくなるなどの事態が起きました。飲料水や食品を通して放射性物質が体に入ることを何という?


A.内部被ばく
B.風評被害
C.除染


A3 正解は「A.内部被ばく」です。

原子力発電は、ウランやプルトニウムが核分裂を起こす時に発生する熱を利用してタービンを回し、発電しています。核分裂をコントロールしながら熱を取り出すために、常に水で冷やし続けなければなりません。ところが、東日本大震災の際、福島第一原子力発電所では、原子炉を冷やす装置が使えなくなってしまいました。このため、非常に高温になってメルトダウンが起こり、その結果、水素が発生し、格納容器が爆発しました。そのために、核分裂によって生じたヨウ素131やセシウム137などの大量の放射性物質が外部に放出されてしまいました。

放射性物質は放射線を出す能力(放射能)を持っており、人間などが放射線を浴びることを被ばくといいます。放射線自体はもともと自然界にも存在しており、その量はふつうの生活を送っていれば人体に大きな害を及ぼすことはないとされています。しかし、今回の事故ではとてつもなく大量の放射性物質が放出されてしまいました。放射線は強いエネルギーを持っているので、一定量以上の放射線を浴びると、体の細胞が傷つけられて、がんなどの病気になる可能性が高まるといわれます。このため、原発周辺の住民は、被ばくを防ぐため、長期間、自宅を離れて避難しなければならなくなりました。

被ばくには、放射性物質が出す放射線を体外から直接浴びる外部被ばくだけでなく、放射性物質を含んだ食品や飲料水などを通じて放射線が体内に入ってしまう内部被ばくもあります。内部被ばくの場合、放射性物質が体内で放射線を出し続けるので、健康への被害が大きいと考えられます。原発事故のあと、被災地やその周辺などの農畜産物から相次いで放射性物質が検出されたため、その地域でとれた農畜産物が売れなくなる事態が発生しました。

また、震災で倒れた建物などの大量のがれきを、被災地以外の自治体が受け入れて処理する対策が進められていますが、がれきにも放射性物質が含まれていると考えられることから、受け入れ先の自治体の住民が反対する事態も発生し、問題となっています。

Bの「風評被害」とは、事実ではないうわさをもとにもたらされる被害のことをいいます。東日本大震災では、被災地やその周辺でとれた農畜産物は、放射性物質が検出されていない種類のものまで売れなくなったことから、風評被害であるとも指摘されました。Cの「除染」とは、放射性物質に汚染された土を入れ替えるなどして、放射線量を下げようという取り組みのことです。


Q4

東日本大震災では、福島第一原子力発電所以外にも多くの原子力発電所や火力発電所が被災したため、深刻な電力不足に見舞われ、さまざまな対策が考えられました。そのうち、大規模な工場や企業に対し電力使用の上限を定めた法律を何というでしょう?


A.電力制限令
B.大規模停電
C.サマータイム


A4 正解は「A.電力制限令」です。

東日本大震災発生直後、東北地方や関東地方の多くの原子力発電所や火力発電所が被災し、供給できる電力量が激減しました。そこで、東京電力と東北電力の管内では、突然、大規模な停電が発生して大混乱に陥ることを防ぐため、あらかじめ決められた地域だけ順番に、最大3時間程度電力供給を止める計画停電を実施。大規模停電は回避できましたが、計画停電の行われた地域では不便な生活を強いられました。

その後、電力供給が回復したこともあり、計画停電は行われなくなりましたが、電力需要がピークを迎える2011年の7~8月には、再び電力不足の危険が高まると予想されたことから、さまざまな対策が行われました。そのひとつが、7月1日に東京電力と東北電力の管内で発令された電力使用制限令です。特に多くの電力を消費する企業や工場などに、2010年と比べて15%の節電が義務付けられ、家庭でも同様の取り組みをするように呼びかけられました。電力使用制限令の発令は、第一次石油危機(オイルショック)の翌年の1974年に発令されて以来、37年ぶりのことでした。

電力使用制限令のほか、夏に最も電力を消費するエアコンをなるべく使わず、設定温度を上げることが推奨され、電力消費量がはるかに少ない扇風機が見直されたり、ネクタイや上着を着ないクールビズの期間が広げられたりしました。電球や蛍光灯よりも電力消費量の少ないLED照明への買い替えも進められました。

また、電気をためておくには多額のコストがかかり、その時に使う分をその時に発電しなければならないため、ピーク時の電力使用量を減らすことが重要です。そのため、毎日、何時ごろにどのくらいの電力が使用される見込みなのかが知らされ、ピーク時の使用を避けるように注意が呼びかけられました。電力消費量を曜日別に見ると、企業や工場が休みになる土曜・日曜は消費量が少ないため、工場などでは、電力消費量の少ない土曜・日曜に機械を動かして平日に休む対策もとられました。こうした対策などの結果、2011年夏以降は大規模停電も計画停電も回避することができました。

Cの「サマータイム」とは、昼の時間が長い夏の約半年間、時刻を1時間早めて、昼時間を長くする制度です。会社や学校のあとで明るい時間を有効活用することで、アメリカの一部の州やヨーロッパの多くの国で実施されています。明るい時間に活動することになるので電力消費量を減らす効果があるとされ、東日本大震災後の電力不足の危機の際にも一部で実施されましたが、「ピーク時の電力使用量を減らすことにはつながらない」「コンピュータのシステム変更などの負担が大きい」といった理由から、国を挙げての実施はされませんでした。


Q5

福島第一原子力発電所の事故は、日本はもちろん世界各国のエネルギー政策に大きな影響を与えました。2011年5月に、国内のすべての原子力発電所を2022年までに停止する方針を発表した国は?


A.ドイツ
B.イタリア
C.フランス


A5 正解は 「A.ドイツ」です。




出典:電気事業連合会ホームページ
( http://www.fepc.or.jp/nuclear/state/setsubi/index.html )より作成。

原子力発電はこれまで、日本をはじめとする多くの国で、放射性物質による危険が指摘される一方、石油や石炭などの化石燃料を使う火力発電と比べて割安と考えられ、二酸化炭素をほとんど出さないことからクリーンなエネルギーとされ、推進されてきました。
しかし、福島第一原子力発電所の事故をきっかけに、原子力発電の危険性が改めて浮き彫りにされました。日本では、2011年7月に当時の菅直人首相が「原子力発電に頼らない社会をめざす」との方針を示し、太陽光、風力、地熱などの再生可能エネルギーの普及にこれまで以上に力を入れることを明らかにしました。しかし、震災によって大きな打撃を受けた産業を復興させるには電力が必要との意見もあり、議論が進められています。

エネルギー政策の見直しは海外でも行われ、2011年5月にはドイツが、すべての原子力発電所を2022年までに停止することを表明しました。6月にはイタリアで、現在停止中の原発再開の是非を問う国民投票が行われ、停止を続けることに賛成する票が圧倒的多数を占めました。一方では、発電量の約4分の3を原子力に頼っているフランスのような国もあり、陸続きであるドイツもイタリアも、そのフランスから電力を買うことができます。島国の日本では同じように他国から電力を買うことができず、脱原発を難しくする原因の一つとなっています。



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