難関校と上位校の読解、難しさを分ける線はどこにあるのか[中学受験]

平山入試研究所の小泉浩明さんが、中学受験・志望校合格を目指す親子にアドバイスする実践的なコーナーです。保護者のかたから寄せられた疑問に小泉さんが回答します。




質問者

小6女子(性格:論理的なタイプ)のお母さま


質問

難関校向けの読解になると急に正解率が落ちます。上位校くらいまでの読解はほとんど間違いませんので、どこにその「線」があるのかわかりかねています。


小泉先生のアドバイス

「設問」や「テーマ」という視点からも、難しさを分ける線が見える。

実際の問題や問いを示して、「これだから難関校の問題は難しい」というのであれば簡単ですが、その問題だけのことになってしまいます。そこで、今回は内容をより一般的にするために、いくつかの視点を挙げて考えてみましょう。なお、上位校と難関校の線引きもなかなか難しいのですが、便宜上、偏差値55から60を上位校、偏差値61以上を難関校とします。その際、偏差値は四谷大塚のものを基準としました。

まず、設問から考えてみましょう。2012(平成24)年に実施された首都圏の学校の入試問題を分析し、難関校と上位校の記述問題数を比べてみます。すると、全設問数を100%とした場合、記述問題数は上位校で17.5%、難関校で25.4%という違いがありました。たかだか8%弱の差ですが、それでもずいぶんと違いはあります。記述問題が1問でも増えると、平均点がずいぶん変わってきますから、この差は大きいと思います。もちろん、年度やデータの取り方によっていろいろなケースが出てくる可能性はありますが、記述問題の数は難関校のほうが比較的多いと言えると思います。

それでは、一つひとつの問題の制限字数はどうでしょうか。なお、分析にあたっては、字数制限のない記述問題や本格的な記述問題のみを対象とするために、制限字数が30字未満のものは除きました。計算してみると、平均で上位校の場合は字数制限が53字、難関校で60字という数字が出ました。平均で10%以上の差が出ていることがわかります。さらに、個々の制限字数の多さを比べた場合、上位校では100字までですが、難関校の場合は100字を超えている学校があり、最高では200字でした。やはり、上位校と難関校の難しさの線は制限字数の多さに表れていると言えるでしょう。

次は、問題文について考えてみます。問題文の難易度はその問題の内容はもちろん、使用している言葉の抽象度によっても違ってきます。このあたりは実際に文章を示さないとわかりづらいので、ここでは「テーマ」について考えてみましょう。ここでいうテーマとは、その文章の「主題」です。たとえば、主人公の少年が友達との関係に悩む物語であれば、その話は「友人友情」がテーマと言えます。つまり、上位校と難関校において出題される「テーマ」に違いはあるのか?ということですが、一般的に言えば、難しいテーマがより上位の学校に出やすいと言えます。
ここで、難易度順に頻出テーマを並べてみましょう。易しい順に、物語文では、「父母子」「友人友情」「ペット」「兄弟姉妹」「祖父母・おじおば」「他者」になります。物語文では、人間関係に関するテーマが圧倒的に多いですね。これに対して説明的文章では、易しい順に、「動植物」「自然・環境」「言語・コミュニケーション」「文化・習慣」「文芸論」になります。つまり、上位校では「自然・環境」「言語・コミュニケーション」はよく出ましたが、「文化・習慣」「文芸論」はテーマ的に難しいために難関校で出やすかったということです。
もちろん、「友人友情」のように易しいテーマでも、内容を掘り下げて(わたしはこれを≪深化≫と呼びます)難関校でも出題されることは少なくありません。たとえば、同じ「友人友情」でも、それが男女間の「恋愛」にまでなるとたちまち難解になります。男の子には女の子の、女の子には男の子の気持ちがなかなかわからないからです。

このようにお話しすると、何が難しいテーマかわからなくなりますが、一つ言えることがあります。それは、テーマの難しさとは、そのテーマが子どもたちにとって≪なじみ≫があるかどうかということです。たとえば、「父母子」や「友人友情(男女関係以外)」は子どもにとって身近なので易しいテーマなのです。説明的文章で身近なのは、「動植物」や「自然・環境」でしょう。それに対して、「文化・習慣」や「文芸論」などは身近ではないため難しく、難関校に出やすいのです。読み手である子どもたちに身近であるかどうか、というところが上位校と難関校の出題の分かれ目になっているということです。

ただし、この話には続きがあります。確かに「文化・習慣」や「文芸論」等のテーマは身近ではなかったのですが、これらのテーマが難関校でよく出題されたため、問題集にも頻繁に掲載されることになります。そして、徐々に身近なテーマになっていくのです。つまり、難関校でのみ扱っていたこれらのテーマは、上位校でも少しずつ扱うようになってくるのです。現に、今年の上位校の頻出テーマには、この二つも入ってきました。さきほど、「難関校で出やすかった」と過去形で書いたのはこのためです。

それでは、難関校と上位校の頻出テーマには差がなくなるのか?と言えば、そこにはさらにルールがあります。それは、なじみの薄いテーマが難しいのですから、難関校には「新しいテーマ」やありふれたテーマでも「新しい切り口で提供されたテーマ」が出題されるということです。そして、それらが何年か出題されてだんだん子どもたちにも浸透してくると、上位校さらには中堅校へと降りてくるのです。つまり、上位校と難関校におけるテーマの「難しさの線」は「テーマの馴染み薄さ」によるということになります。

以上、「設問」や「テーマ」という視点から、上位校と難関校の難しさを分ける線について考えてみました。問題の難度を測る一つの尺度だと思いますから、実際の入試問題で確かめてみてください。



プロフィール


小泉浩明

桐朋中学・高校、慶応大学卒。米国にてMBA取得後、予備校や塾を開校。現在は平山入試研究所を設立、教材開発など教務研究に専念。著作に「まとめ これだけ!国語(森上教育研究所スキル研究会)」などがある。

子育て・教育Q&A