国語の物語文で人の気持ちを読み取るのが苦手です[中学受験]
平山入試研究所の小泉浩明さんが、中学受験・志望校合格を目指す親子にアドバイスする実践的なコーナーです。保護者のかたから寄せられた疑問に小泉さんが回答します。
【質問】
国語の物語文の問題で、登場人物の気持ちをとらえるのが苦手です。どのように勉強させればよいでしょうか。
相談者:小5男子(神経質なタイプ)のお母さま
【回答】
気持ちをとらえる手順ごとに、つまずく原因を考えて対策していく
■まずは「心情表現とは何か」を認識させる
物語文で登場人物の気持ちをとらえるのが苦手なお子さんは少なくありませんが、つまずいているところは人それぞれのようです。今回は気持ちをとらえる手順ごとに、つまずきの原因と対策を考えていきましょう。
まず、気持ちをとらえる手順ですが、次の(1)~(3)が一般的でしょう。
(1) 本文の心情表現を認識する。
(2) 心情表現から登場人物の気持ちを理解する。
(3) 理解した気持ちを言葉で表現する。
ここでいう心情表現とは間接的な心情表現であり、言葉・動作・情景描写などで気持ちを表す言葉です。たとえば「道夫は突然降り出した激しい雨の中に立ちすくんだ。」という文がある時、「立ちすくんだ」という動作が心情表現です。そして、この言葉が何らかの心情を表していると認識できることが最初の一歩です。もちろん「激しい雨の中」なのですから、「立っていた」という表現でも普通の状態ではないでしょうが、「立ちすくんだ」という表現に込められた筆者の思いを感じられるかどうかということです。
気持ちをとらえるためには、このようにどれが間接的な心情表現なのかを認識する必要があります。しかしそれができない場合は、心情表現が出てくる文章を使って、心情表現を探して線を引かせる練習をするとよいでしょう。気持ちの読み取りが苦手なお子さんは、この最初の部分でつまずいている場合が少なくありません。心情表現とはどんなものか、その言葉が心情表現といえるかどうかなど、実際に線を引かせて練習させる必要があるでしょう。
■心情表現から気持ちをとらえるには
次は、たとえば「立ちすくんだ」という心情表現から、登場人物の気持ちをとらえるというステップです。「立ちすくむ」とは、驚きや恐ろしさで立ったまま動けなくなることであり、単に「立っていた」とは違った感じを読者に与えることでしょう。
しかし、どのような感情なのかわからない場合はあると思います。そんな場合は「プラスの気持ち」「マイナスの気持ち」などと、気持ちを二つに分けて考えることが有効です。もちろん、どちらにも当てはまりづらい気持ちもありますが、どんな気持か考えあぐねているよりは、「いい気持ち」なのか「いやな気持ち」なのかだけでもはっきりさせたほうが考えやすいと思います。実際に記述問題にあたる時にも、何も書かないで白紙で出すよりは、「~して、いやな気持ちになったから」と書いたほうが点数は上がると思います。もちろん、「いやな気持ちになったから」よりは、たとえば「腹が立ったから」のほうがレベル的には高い答案でしょうが、第一歩としては十分であるということです。
さらに、気持ちを考える時にはもう一つ大切なことがあります。それは、一つの心情表現からいくつもの気持ちが考えられるということです。たとえば、登場人物が目に涙を浮かべたとしても、それは「悲しい」場合もあれば、「うれしい」場合もあります。さらには、一つの気持ちだけでなく、複数の気持ちを同時に持つこともあり得るでしょう。たとえば、「友達から赤い手袋をプレゼントされてうれしいが、赤は派手なのでちょっと恥ずかしい」という気持ちになるといった場合です。このように、気持ちを最初から一つに決め付けることなく、いくつもの可能性を考える習慣を付けることも大切です。
■系統別に気持ちの言葉を整理。知らない言葉が出てきたら辞書で調べる
さて、最後は、とらえた気持ちを自分の言葉で表現できるかどうかです。間接的な心情表現の場合は、自分が知っている言葉から適切なものを選んで表現する必要があります。言葉が豊かでないお子さんは、わかっているのに表現できません。心情がわかっていてもそれを言葉にできない、すなわち点数にならないということになります。このようなことがないように、気持ちを表す言葉を豊かにすることを心がけてください。さすがに「いい気持ち」「悪い気持ち」だけで押し通すことは難しいでしょう。
感情を表す言葉の分類は「喜怒哀楽」や「喜怒哀楽愛憎」(六情)などのシンプルなものから、より複雑なものまでいろいろありますが、こうした基本的なものを教えたうえで、さらに系統立てて示していくとわかりやすいと思います。たとえば「喜びの系統」であれば、「うれしい」「照れくさい」「ありがたい」……、「怒りの系統」であれば、「腹立たしい」「悔しい」「恨めしい」……といった具合です。
このようにして基本的な気持ちを表す言葉を覚えていくわけですが単なる丸暗記だけではすぐに忘れてしまう可能性はあります。また、実際に使う段になると、その場面での気持ちにそぐわないことも出てくるでしょう。言葉はやはり実際に使ってみて、細かいニュアンスを体得していくのがいちばんです。ということで、使い方が違っていたらその場で直し、また、知らない表現が出てきたら、やはりその場で覚えてしまうということを繰り返していきましょう。基本的とはいっても、気持ちを表す言葉は既にいくつも知っています。一つの言葉に出合った時、その言葉の意味するものがどの言葉に近いのか、あるいはそうではないのかを知ること、すなわち比べることは、その新しい言葉のマスターをより容易にすると思います。その意味では、基本的な言葉を単なる丸暗記で暗記することは、とても重要なことなのです。
さて、ここまで学んでくれば、物語の心情をとらえることについてそんなに苦手意識を持つことはなくなっていることでしょう。あとは、本を読んだり、問題文を解いたりして知らない言葉が出てきたら、辞書などで意味を調べてそれを自分のものにしていくという努力を続けていけばよいだけです。