「円高」による、日本の貿易や私たちの暮らしへの影響について考える
新聞やテレビなどで、「円高」についてのニュースを目にすることの多い2011年。円高は、中学入試では日本の貿易などと関連付けてしばしば取り上げられるテーマであり、円高による影響をさまざまな立場から考えることは、適性検査で問われる力にもつながります。そこで今回は、円高とはどのようなことで、それが日本の貿易や私たちの暮らしにどのような影響を及ぼすのかを調べていきましょう。
クイズde基礎知識
世界の「基軸通貨」は?/1ドル=100円が80円になると円高? 円安?/輸出入への影響は?/過剰な円高を抑えることはできる?
時事問題を学ぶきっかけになる題材をクイズ形式でご紹介します。基本情報の整理に、親子で時事問題について話題にするきっかけに、適性検査対策に、お役立てください。
Q1
2011年現在、最も取引が多く、世界のさまざまな通貨の中心となる「基軸通貨」はどれ?
A.イギリスの『ポンド』
B.アメリカの『ドル』
C.ヨーロッパの『ユーロ』
A1 正解は 「B.アメリカの『ドル』」 です。
国が違えば使われているお金=通貨も違います。たとえば日本からアメリカに旅行をする時には、日本の通貨である「円」と、アメリカの通貨である「ドル」を交換しなければなりません。
通貨を交換する比率のことを為替(かわせ)レートといい、各国でさまざまな通貨が取引されることにより、為替レートの比率は毎日変動しています。為替レートは、アメリカのドルを基準に「1ドル=××円」のように表されます。これは、ドルの取引量が最も多いためで、ドルは世界のさまざまな通貨の中心となる「基軸通貨」の役割を果たしています。
イギリスの力がとても強かったころは、Aのポンドが基軸通貨の役割を果たしていました。Cのユーロは、2002年からヨーロッパで使われている通貨です。2011年現在、欧州連合(EC)加盟国17か国で使われていますが、イギリス、デンマークなど10か国ではユーロを導入していません。
この他、韓国ではウォン、中国では人民元などが使われています。また、ドルのようにアメリカだけでなくシンガポールやカナダなど多くの国で使われ、それぞれアメリカドル(USドル、米ドル)、シンガポールドル、カナダドルなどと呼ばれて区別されているケースもあります。他にもどのような国でどのような通貨が使われているのかを調べてみると、いろいろな国や通貨について興味を広げるきっかけになります。
Q2
1ドル=100円だったのが、1ドル=80円になったとすると、これは円高? 円安?
A.円高
B.円安
A2 正解は 「A.円高」 です。
為替レートは、その国の通貨が他国の通貨と比べてどれくらいの価値があるのかを示す基準ともなり、為替レートの変動は、その国の通貨の価値の上下を示しています。「円高」とは円の価値が上がったことを表し、「円安」とは円の価値が下がったことを表します。
1ドル=100円だったのが1ドル=80円になったとすると、値段が安くなったのだから「円安」だと思いがちです。しかし、円高や円安という言葉は「円の価値」を示す言葉ですから、「1円=××ドル」というように、円を基準にして比べなければなりません。すると、
となり、この場合、円の価値が0.0025ドル上がった、すなわち「円高」になったといえます。
Q3
一般に円高になると、日本の輸出や輸入にどのような影響がある?
A.輸出には有利に、輸入には不利にはたらく
B.輸出には不利に、輸入には有利にはたらく
C.輸出にも輸入にも有利にはたらく
D.輸出にも輸入にも不利にはたらく
A3 正解は 「B.輸出には不利に、輸入には有利にはたらく」 です。
「1ドル=100円」が「1ドル=80円」の円高になったとして、輸出や輸入に対してどのような影響があるかを考えてみましょう。
まず、アメリカに輸出した日本製のテレビの値段で考えてみると、
となります。同じ製品なのに値段が高くなるのですから、輸出先の国では買ってもらいにくくなることが考えられます。つまり「円高」は、輸出には不利にはたらくといえるのです。
次に、アメリカ製のバッグを日本に輸入した場合を考えてみると、
となります。同じ製品なのに値段が安くなるのですから、日本では輸入品を安く買えるようになると考えられます。つまり「円高」は、輸入には有利にはたらくといえるのです。
この他、円高によるさまざまな影響については、このあとの「親子でやってみよう」でも考えてみます。
※実際の輸出入の際には製品に税金(関税)がかけられるため、それが製品の値段に加わる場合もあります。
Q4
過剰な円高を抑えるために政府が行う対策として、どのような手段が考えられる?
A.円を買う
B.円を売る
正解は 「B.円を売る」 です。
2011年は「8月19日のニューヨーク外国為替市場で、1ドル=75円後半の戦後最高値(さいたかね)更新」、「9月21日の東京外国為替市場で、1ドル=76円前半の戦後最高値更新」というニュースが話題になったあと、10月後半にも、世界の市場で連日最高値更新(1ドル=75円前半)のニュースが続きました。
このような記録的な円高が進むなか、政府が外国為替市場に介入する動きもありました。一般に、円が買われると市場に円が少なくなり、円の価値が上がるので円高になり、円が売られると市場に円が多くなり、円の価値が下がるので円安になります。そのため、政府が円を売ることによって、円高を抑える効果が期待できるというわけです。
その一方で、政府は介入するべきではないという意見もあります。為替レートは、貿易による通貨の出入りや銀行の金利、政治的な事件や災害、事故、政治家の発言、為替市場を利用してお金をもうけようとする人の考えなど、さまざまな要素によって変動します。現在の円高も、これらの要素が複雑に絡み合って生まれています。そのため、政府が市場へ介入しても、そのような複雑な原因の解消にはつながらず、一時的な効果しかもたらされないとも考えられるからです。