2022/07/21

子どもたちのデジタルメディア利用の実態と学業成績に及ぼす影響:小学生・中学生・高校生を対象とした3波パネル調査の分析

激しい社会変化のなかで、子どもの生活や学びもどのように変化しているのか。
その変化を多面的、継続的に捉えるために、ベネッセ教育総合研究所と東京大学社会科学研究所は共同研究プロジェクトを立ち上げました。そこで実施された調査の結果データを、いま多くの研究者たちが分析しています。本プロジェクトデータから得られた洞察と仮説をもとに、社会課題の解決の糸口を模索しています。
研究論文には書ききれなかった思いと展望を、研究者自身が伝えます。
田島 祥

田島 祥

東海大学スチューデントアチーブメントセンター准教授。博士(人文科学)。
お茶の水女子大学大学院人間文化研究科人間発達科学専攻 博士後期課程 単位取得退学。関東学園大学講師等を経て、2021年4月より現職。
NHK放送文化研究所“子どもに良い放送”プロジェクトの協力研究者を務めている。社会心理学や教育工学の分野において、メディア利用の影響や子どものメディア利用における保護者の関わりの効果等について研究している。
https://researchmap.jp/read0123820

はじめに

 デジタルメディアは現代の生活に欠かせないものであり、それは子どもたちにとっても同様である。これまでの調査から、小学生、中学生、高校生と、校種が上がるごとにメディア利用時間は長くなることが示されており、可処分時間に占める割合は決して少なくない。
 メディア利用が及ぼす影響に関しては、パーソナリティや対人関係、身体的健康といった様々な観点から研究が行われ、知見が蓄積されてきた。とりわけ、認知能力や学力、学業成績への影響に対する関心は高く、テレビ視聴やゲーム遊び、コンピュータや携帯電話・スマートフォン等の利用等との関係について、多くの研究が行われている。 しかし、負の効果を示す研究もあれば、逆にそのような影響はないとする研究もあり、結果は混在していて一貫した知見は示されていない
 本研究では、日本の子どものメディア利用の実態やメディア利用と学業成績の因果関係について検討することを目的として、大規模パネル調査である「子どもの生活と学びに関する親子調査」のデータを分析した。本研究の特徴として、主に次の3点を挙げることができる。
  • ①同じ子どもを3年間追跡し、メディアの利用の変化を捉えたこと
  • ②メディア利用や学業成績等の変数間の因果関係を推定したこと
  • ③発達段階(小学校高学年、中学生、高校生)による違いを検討したこと
 メディア利用が学業成績に及ぼす影響を説明する代表的な理論の1つに「置き換え仮説」がある(e.g., Shin, 2004)。この理論では、メディアを利用する時間が増えることで、宿題や読書などの活動時間が減り、成績に負の影響を与える可能性があると指摘する。これをふまえ、本研究では、メディア利用が学業成績に及ぼす直接の影響だけではなく、読書や学習時間を媒介した影響についても検討した
 2016年から2018年に実施された「子どもの生活と学びに関する親子調査」のうち、2016年に小学校4年生、中学1年生、高校1年生だった親子を3年間追跡したデータを分析した。小学生は755名(男性349名、女性406名)、中学生は714名(男性329名、女性385名)、高校生は673名(男性324名、女性349名)が対象となった。

メディア利用時間の変化

 本調査では、「テレビやDVDを見る」「テレビゲームや携帯ゲーム機で遊ぶ」「携帯電話やスマートフォンを使う」「パソコンやタブレットを使う」時間を毎年たずねており、これらを合計して「デジタルメディア利用時間」と定義した。なお、各メディアの利用について、これ以降「テレビ視聴」「ゲーム遊び」「携帯電話・スマートフォン利用」「PC利用」と表記する。また、統計的に有意な変化があった事柄のみ言及する。
 図1にデジタルメディア利用時間の変化を、図2から図5に、4種類のメディアごとの利用時間の変化を示す。 校種ごとにデジタルメディア利用時間の平均値を比較すると、小学生、中学生、高校生の順で利用時間が有意に長かった
 3年間の変化に着目すると、校種による特徴がみられた。小学生は、学年が上がるほどデジタルメディア利用時間が増加していた(4年生<5年生<6年生)。また、4種類のメディアの利用時間がそれぞれ増えており、生活にメディアが入り込んでいく様子が窺えた。中学生は、1年生のときよりも2、3年生の方が利用時間は長くなったが、2年生と3年生の間に差はみられなかった(1年生<2、3年生)。メディアごとの変化をみると、3年生になるとテレビ視聴時間は減り、携帯電話・スマートフォンやPCの利用時間が増えていた。情報収集やコミュニケーションのためにインターネットを活用することに加えて、テレビを視聴していた時間がネット動画に置き換わった可能性が考えられる。 高校生では、1、2年生の間に利用時間の差はなく、3年生になると減少していた(1、2年生>3年生)。特に、テレビ視聴やゲーム遊びの時間が短くなっていた。さらに、3年生では学習時間が大きく増加していたことから(1、2、3年生の順に、98.00分、93.47分、172.56分)、受験勉強など、卒業後の進路を見据えた学習に時間が割かれるようになったと考えられる。
図1
図1. デジタルメディア利用時間の変化
図2
図2. テレビ視聴時間の変化
図3
図3. ゲーム遊び時間の変化
図4
図4. 携帯電話・スマートフォン利用時間の変化
図5
図5. PC利用時間の変化

メディア利用と読書、学習時間、学業成績の因果関係の推定

 3時点で測定した「デジタルメディア利用時間」「読書時間」「学習時間」「学業成績」の間の因果関係を、交差遅延効果モデルを用いて推定した*1。ここでは、デジタルメディア利用時間に関わる主な結果を報告する。
 小学生、中学生、高校生に共通して、メディア利用時間が学業成績に直接的に及ぼす影響はみられなかった。いわゆる“悪影響論”と言われるような、「メディアを長時間利用することによって成績が下がる」という関係にはないといえる。
 小学生では、学業成績がメディア利用時間に及ぼす負の影響がみられた。すなわち、「成績が低いほど1年後のメディア利用時間は長くなる」あるいは「成績が高いほど1年後のメディア利用時間は短くなる」ことが示唆された。中学生では、この関係に加えて、学習時間がメディア利用に及ぼす負の影響がみられた。すなわち、「学習時間が短いほど/成績が低いほど、1年後のメディア利用時間は長くなる」「学習時間が長いほど/成績が高いほど、1年後のメディア利用時間は短くなる」ことが示唆された。
 高校生では、デジタルメディア利用時間が学習時間を媒介して学業成績に影響を及ぼすことが示唆された。すなわち、「デジタルメディア利用時間が短いほど、1年後の学習時間は長くなる。そして、学習時間が長いほど、翌年の成績は高くなる」あるいは、「デジタルメディア利用時間が長いほど、1年後の学習時間は短くなる。そして、学習時間が短いほど、翌年の成績は低くなる」という関係がみられた。この結果は、置き換え仮説に沿うものであった。

今後に向けて

 子どもとメディアをめぐる環境は、より低年齢から使い始めるようになっていることや、利用が長時間化していること、GIGAスクール構想により学校教育でも積極的にICTを取り入れるようになっていること、学校外でも教育目的でメディアを利用する機会が増えていることなど、大きな変化の中にあり、それらが子どもたちに及ぼす様々な影響に関心が寄せられている。本研究では、校種によってメディア利用の実態や学業成績等との関連は異なることが示された。子どもとメディアの適切な関わり方を考える上で、発達段階を考慮することの重要性が改めて確認されたといえる
 なお、今回は小学校高学年、中学生、高校生と、校種ごとに分析を行ったが、小学生が中学生に、中学生が高校生に進学するタイミングでメディアの利用のしかたも変化すると考えられる。今後、より長期的な視点で分析することも必要だろう。また、メディアの全般的な利用時間に加えて、学習あるいは娯楽といった利用目的にも着目し、その影響を検討していくことで、さらに多様な知見が得られると期待される。
*1 子どもの性別と、調査対象の子どもの月平均教育費を統制した。複数の分析モデルを比較し、最も適合がよかった交差遅延係数に等値制約をかけたモデルを採用した。

引用文献

  • Shin, N. (2004) Exploring Pathways From Television Viewing to Academic Achievement in School Age Children. The Journal of Genetic Psychology: Research and Theory on Human Development, 165(4), 367-382.