中高一貫校に求められる教育の目的は何か[中学受験]

今年は、東日本大震災の影響で、内々定が出される期日が2か月ほど遅れたばかりでなく、長引く不況の影響もあり、学生にとって厳しい就職活動であった。最近は、一部の指標では、日本の景気は好転してきたようだが、世界の景気は良くなることは考えにくく、来年も金融を中心に厳しい就職となると予想されている。このように就職が厳しい状況は、日本だけの現象ではない。世界の経済を動かしてきたアメリカ・ヨーロッパだけではなく、中国のような新興国でも一流大学を出た学生でさえ就職できない状況にある。経済の仕組みが、そう簡単には変わらないことを考えると、このような状況が当分、続くことが予想される。

今から40年ほど前の「団塊の世代」の就職は、どのようなものだったか。考えてみると、まず、企業からダイレクトメールが届き、その中から志望する企業を選び説明会に行くわけだ。わたしの知り合いは大手総合商社に就職したが、リクルートスーツなどは持っていなかったので、普段着で、当時流行っていた長髪のまま説明会に出席したところ、いきなり面接になって、その場で採用が決まったそうだ。今では信じがたい就職活動であったが、その当時の日本の企業では、大学卒の社員をたくさん必要としており、企業は大学生の奪い合いだった。そんな時代でも出身大学で説明会の会場が分かれたということで、有名・難関大学出身者は就職が有利であったようだ。もちろん、採用時だけでなく入社後も昇進などで有利であったことから、学歴崇拝が生まれ、今日に至っている。

確かに、これまでの日本では、より良い就職を得るための大学であり、その大学に入学するための中高一貫校であったことは否定できない面もある。今でも、中高一貫校に求められるのは、優れた受験教育という受験生・保護者が多いが、一部に、大学合格実績だけで志望校を選ぶべきではないという考えの受験生・保護者が出てきている。有名大学や難関大学の出身というだけで、人生が豊かになる保証が得られない現在、受験生・保護者が本当に大学合格実績だけで中高一貫校を選んでよいものか疑問に思うのも無理がない。

だからと言って何を中高一貫校に求めるかは明確ではなく、「我が子に合った学校」というイメージで志望校を選定してきた。学校教育の内容としては、極端に言えば「学力」と「人格形成」しかないので、「我が子に合った学校」に求めるものが「学力」でなければ、「人格形成」となり、今後は、これまで隅に追いやられてきた感のある「人格形成」が復活するかもしれない。
というのも、現在、企業が大学生に求めるのは学歴ではない。企業で発揮してもらいたいコミュニケーション力や協調性などの社会的能力や人柄のような人格力があるかどうかを就職で試されている。以前は、より良い就職を求めて難関大学に合格することを中高一貫校に求めたことが、今は人格力を鍛えてくれることを求めるとしてもおかしくない。


プロフィール


森上展安

森上教育研究所(昭和63年(1988年)に設立した民間の教育研究所)代表。中学受験の保護者向けに著名講師による講演会「わが子が伸びる親の『技』研究会」をほぼ毎週主催。

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