2017/03/10
[第1回] 未来を生きる子どもたちのために、学校教育に求められるものは何か [2/4]
Q. これまでの学校教育で伸ばしてきた力と、どう違うのでしょうか?
A. 知識をたくさん持つことではなく、「知識の質」を高めていくことが求められます
次期学習指導要領では、「資質・能力の育成(何ができるようになるのか)」を前面に押し出しています。今回の改訂内容では、アクティブ・ラーニングやカリキュラム・マネジメントに注目が集まっていますが、最も重要な大きな変化は、「生きて働く知識・技能」という"知識の質"を明示し、その育成を目指すとはっきり打ち出していることです(図参照)。
図.育成すべき資質・能力の3つの柱
※中央教育審議会「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策などについて(答申)」より
単に知っているだけでは知識を持っているとはいえず単なる情報にすぎません。必要なときに思い返し、課題に適用して変換され、生きて働くものが「知識・技能」である点は大きな意識転換が必要です。
これまでの教科指導では、教科固有の知識を教科ごとに指導してきました。例えば、歴史では、歴史的な出来事の年号やかかわった人名、原因などを覚えることが中心でした。しかし、それだけではいくら知識が増えても、それを生かして問題解決をすることはできません。
なぜその出来事が起きたのかについて、前の時代との関係、その後の時代への影響、為政者の立場、民衆の立場などを調べて、考え、まとめる。すると、知識同士が概念化・構造化されて結びつき、歴史の見方・考え方が分かってきます。この見方・考え方を身につけることができれば、ほかの時代の出来事にも適用でき、出来事の因果関係などを考えることができるようになるのです。
文部科学省「全国学力・学習状況調査」にはA問題とB問題がありますが、これらは両方とも「知識の習得」を測る問題です。たとえA問題が解けても、B問題が解けなければ、知識を活用できていることにはなりませんから、これからは両問題が解けて、初めて「知識を持っている」と言えるようになるのだと思います。
Q. 「知識・技能」の習得に加えて、「思考力・判断力・表現力等」も育成することは両立できるのでしょうか?
A. 生きて働く知識を身につけるためには、思考・判断・表現活動が必要です。両者は別々に育むのではなく、相互作用しながら形成されるのです
「知識・技能」と「思考力・判断力・表現力等」の関係については、これまでも、「知識があっても思考力がなければだめだ」とか、「知識がなければ考えることはできない」といった二項対立の議論がなされてきました。しかし、ここ二十数年の研究で、二項対立論はすでに終結しています。
「思考力・判断力・表現力」というと、「知識・技能」とは全く異なる力を鍛えることのように捉えられていますが、実はそうではありません。例えば、深い思考をしているときには、細かい知識を巧みに使って考えています。コンピューターにたとえるなら、知識はデータで、思考力・判断力・表現力がプログラムであり、その双方があって課題は解決できるというのと同じことです。
また、データからプログラムが生まれたり、プログラムを適用することでデータが再整理されたりなど、両者は相互作用しながら高まっていきます。つまり、「思考力・判断力・表現力」と「知識・技能」を互恵的に働かせることで、使える知識にして身につけるのです。予測を立て調べたり実験したりした方が忘れないように、思考・判断・表現をしながら知識の深い習得が可能になるという関係性なのです。
ですから、「『知識・技能』と『思考力・判断力・表現力』の両方」を育むのではなく、「柔軟で豊かな思考をもたらすような質の知識・技能」を育むことが重要になるのです。