受験生・保護者による、学校に求められる「教育」の変化[中学受験]

バブル崩壊前までは、有名大学を卒業していれば、就職を心配することはない、という声もあった。しかし、バブルの崩壊後は、学歴を就職に有利に働かせることは難しくなり、リーマンショック以降では、有名大学を出ても希望する企業に入社できない例が多くなった。そのような状況から、近年の傾向として現れたのが、大学だけではなく将来の職業をも意識した志望校の選定を行う中学受験である。大手の中学受験塾が受験生に行ったアンケートでは、理系、特に手に職をつけることができ、就職に有利といわれる医療系をめざす生徒および保護者が多くなっている様子がうかがえる。

中学受験生とその保護者が大学だけではなく、将来のことをどれだけ考えているかを、データで検証してみよう。毎年、ある中高一貫校では入学したばかりの中学1年生と高校1年生の保護者にアンケートを行っている。アンケートの設問は、多岐にわたるが、その中に、「有名大学への進学とその後の有名企業への就職ではどちらのほうを重視しますか?」という設問がある。その回答を見ると、2011~2013年の中学1年生にはほとんど変化はなく、約65~68%の保護者が有名企業への就職よりも有名大学への進学を重視していた。ところが、新高校1年生は、2011・2012年は中学生と同じであったが、2013年のアンケートでは、有名大学への進学よりも有名企業への就職を重視する保護者が、前年度に比べて10ポイントも増加したのだ。これまでの分析では、高校で起こった現象は数年後に中学でも起きることから、今後、中学でも有名企業への就職を重視する保護者が増加することが予想できる。


また、次の「本校のキャリア教育(将来設計についての教育)は充実していると思いますか?」という設問において、中学1年生保護者の「はい」という回答は2011・2012年では50%前後であったが、2013年には64.3%まで上昇している。アンケートを取った学校では、キャリア教育についての説明は、2011~2013年においては特に変更がないということなので、今年から保護者側のキャリア教育についての意識が高くなった可能性がある。高校1年生でも中学1年生と同じ現象が出ている。


さらに、受験生・保護者は将来に対する不安の払拭(ふっしょく)を、私立中高一貫校に期待していることがわかるデータがある。「本校に期待していることを、ご自由にお書きください。」の記述内容で多い事項を以下の1~5に分類し、それ以外の内容を6の「その他」とした。中学1年生保護者の2011・2012年のデータでは、それほど大きな差はない。しかし、2013年では、4、5の合計の「社会人基礎力」に関する項目が大幅に増加し、「その他」が大幅に減少した。「その他」は、漠然とした願いのような内容が多かったが、我が子を成長させて将来に対する不安を払拭するための現実的な要望が増加したように思える。たとえば、増加した「社会人基礎力」や「学力」は現実的な要望の事例であろう。また、「社会人基礎力」が「学力」よりも多く、「社会人基礎力」に対する期待が大きいことがうかがえる。さらに、高校1年生でも中学1年生と同じ現象が出ている。


これらの結果から、保護者としては、学歴だけでは不安な社会になったということになる。自分の人生を切り開く力として、近年、注目されているのが、いわゆる「社会人基礎力」だ。就職にも有利となるため大学で盛んに強調されているが、中学・高校から配慮しなければ、なかなか身に付けることはできない。「社会人基礎力」は、経済産業省の定義によれば、「前に踏み出す力(アクション):主体性、働きかけ力、実行力」「考え抜く力(シンキング):課題発見力、計画力、創造力」「チームで働く力(チームワーク):発信力、傾聴力、柔軟性、状況把握力、規律性、ストレスコントロール力」の、3つの能力と12の能力要素からなり、問題にぶつかった時にその問題を解決するための能力と説明されている。まさに、人生を切り開くための力である。

むろん、激変が予想される大学受験の関門も「社会人基礎力」で乗りきることができれば、大きな自信となって、大学ではさらに大きなことにチャレンジできる。その成果を示せば、就職も有利に進めることができ、入社後も活躍できることになる。アンケートデータや社会の動向から見ても、大学受験指導に汲々(きゅうきゅう)とする学校よりも、センター試験廃止後をにらんで自ら問題(テーマ)を設定し、解決していくという、人生を切り開く力を身に付けさせる学校のほうが、受験生・保護者から求められる可能性が高い。


プロフィール


森上展安

森上教育研究所(昭和63年(1988年)に設立した民間の教育研究所)代表。中学受験の保護者向けに著名講師による講演会「わが子が伸びる親の『技』研究会」をほぼ毎週主催。

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