なぜ今、足す、掛けるなどの操作をしなくてはならないのかの意味を本当に理解しているのか?[中学受験]

平山入試研究所の小泉浩明さんが、中学受験・志望校合格を目指す親子にアドバイスする実践的なコーナーです。保護者のかたから寄せられた疑問に小泉さんが回答します。




質問者

小6男子のお母さま


質問

単純な計算問題ならば、さほど問題はなさそうなのですが、文章問題など「考える」問題になると、問題の読み取り段階で、ダメだと思ってしまう傾向があるようです。国語の読み取りはそれほど苦手ではないようですが、算数はもともと苦手意識があるからか、内容を把握する前に逃げてしまうような気がしています。また、ごく基本的なことですが、適当に足したり掛けたりしているように見えるので、なぜ今、足す、掛けるなどの操作をしなくてはならないのか、その意味を本当に理解しているのか?と思うことがしばしばあります。


小泉先生のアドバイス

線分図などをかいて、視覚も使って考えさせるのが効果的。

「意味を本当に理解しているのか?」ということですが、理解できていない可能性は高いと思います。このような生徒さんは、「足す」とか「掛ける」などの本当の意味を理解せずに、機械的に式をたてて問題を解こうとするため、「基本問題はスラスラ解けるのだが、少しひねられると手も足も出ない」とか、「偏差値50の壁を超えられない」ということが多いようです。今回は、「機械的に式をたてる」とはどういうことか、逆に「意味を理解する」とはどういうことかを例題を使って考えてみましょう。


【例題1】
りんごの個数とかきの個数との比は9:5でりんごの個数は、かきの個数より12個多いそうです。りんごの個数は何個ですか。


例題1は比を利用して個数を求める基本問題で、考え方は以下の通りです。

比の差は 9 - 5=4 
比4が12個にあたるから、比1にあたる個数は 12÷4=3(個)。
りんごの個数、3×9=27(個) 答え 27個

となります。

この問題の着目点は、「比4が12個にあたる」というところです。つまり、「比1にあたる個数」から答えを求める問題であり、教室で指導する先生は、線分図などを使ってこの点をしっかり教えるはずです。しかし、原理原則を理解せず、数字の操作だけをうのみにする生徒さんも少なくありません。たとえば、「このような問題が出てきたら、(1)個数の差を比の差で割り、(2)出てきた数字を比に掛ければ良い」という具合です。これが、「機械的に式をたてる」ということです。「なぜそのような操作をするのか?」をわからずに計算をするので、同じような問題であればスラスラと解けます。たとえば上記の問題の数値だけを入れ替えたような問題であれば、原理原則を考えながら解く生徒さんより早く解けるかもしれません。しかし、少し条件が変わると、たちまち困ってしまいます。たとえば、以下のような問題です。


【例題2】
りんごの個数とかきの個数との比は9:5でした。次に、りんごを3個、かきを5個食べたので、りんごの個数は、かきの個数より14個多くなりました。最初のりんごの個数は何個ですか。


例題1とほとんど同じ内容の問題ですが、「りんごを3個、かきを5個食べた」という条件が加わったために、今現在の個数の差(14)を最初の比の差(4)で割っても、「比1にあたる個数」は出てきません。原理原則で考えない生徒は、機械的に計算をして14÷4=3.5(個)という数字が出た段階で、「???」となってしまうことでしょう。
このようなお子さまを指導する場合は、例題1の基本問題にもどって問題や式の意味を考えさせる必要があります。しかし、お子さまにたてた計算式の意味をたずねても、「なんとなく」という答えしか返ってこないでしょう。ここは、以下のような線分図などをかいて、視覚も使って考えさせるのが効果的です。なお、線分図は慣れないとなかなかかけないと思いますから、最初のうちは、授業でかいたものや例題の解答解説に載っているものを使ってください。



図1のような図を使いながら、問題文の内容や計算式の意味を考えていきます。ただし、お母さんがどんどん説明するというよりも、あくまでもお子さまが主になって説明するのがポイントです。「たとえば、9 - 5=4 というのは、比の差で赤いところを出したもの(図2)。これは、りんごとかきの差12個にあたる。これより、比1は3個になるので、りんご9は9×3で27個になる」という具合です。一度授業でやった問題であれば、なんとか説明ができると思います。



この問題は、すでに述べたように「比1にあたる個数」がポイントになります。比と個数の意味の違いを示すために、比を示す数字をと表す場合があります。最初はなかなか難しいと思いますが、問題数をこなしていくと「1あたりの量(個数)」の使い方にも慣れてくると思います。
このように原理・原則で考えていくと、例題2のように少しひねられた問題でもしっかり答えを出すことができるようになります。たとえば、図3のような図をかいて「かきは2個多く食べたのだから、最初の差(9対5の時の差)は14‐2=12(個)となる」ということがわかり、実は例題1とまったく同じ問題だったことがわかるでしょう。



偏差値50の壁を超え、55、60と成績を伸ばしていくためには、原理・原則で問題文を理解し、解き方を考えていく必要があります。もちろん、小学生がすぐに使えるようになるには難しい内容もあります。たとえば今回の、「1あたりの量」などが良い例だと思います。これらは、問題量をこなすことで、経験的に慣れるほうが受け入れやすいでしょう。しかし、線分図などによる問題内容や解き方の理解は、避けて通るべきではないでしょう。図をかく手間を惜しんで、意味もわからず問題量をこなしていっても、算数の上達は難しいと思います。


プロフィール


小泉浩明

桐朋中学・高校、慶応大学卒。米国にてMBA取得後、予備校や塾を開校。現在は平山入試研究所を設立、教材開発など教務研究に専念。著作に「まとめ これだけ!国語(森上教育研究所スキル研究会)」などがある。

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