2011年度入試で何が問われたか<社会>

■2011年度中学入試<社会> 出題内容の分析

次に、出題内容の特徴について解説します。


(1)時事問題や、時事問題を切り口にした出題が増加


分析校120校で、時事問題を出題した学校数の割合について、校種別に変化を見ると、次の表のとおりです。


全体で見ると、約90%の学校が時事問題を出題しています。時事問題を単なる知識を問う問題として出題するのではなく、国内外の出来事(時事問題)と、これまで学んできた学習とをリンクさせて、現代社会が抱えている問題について理解し、考える出題が多く見られました。時事問題に対して興味や関心のある生徒を望んでいる、という学校側の意図が明確です。

分析校120校で、2011年度入試の時事問題に取り上げられたテーマのトップ10は以下のとおりです。


毎年そうですが、今年も選挙の出題が非常に多かったです。選挙の歴史を見直しておく必要があります。また、10位に地震・火山の噴火がありますが、来年度は東北地方の産業・歴史について見直して理解を深めておきましょう。



(2)資料の読み取り問題が多出


表・グラフ・雨温図・分布図・史料・絵画資料・写真・地形図など、資料の読み取り問題が数多く出題されました。理科とも共通することですが、分析力と合わせて、表現力も求められています。自分の言葉で、言いたいことをまとめる練習をしておきましょう。



(3)身近な生活に関するテーマの出題が多出


水、塩、LED(発光ダイオード)、フェアトレードなど、私たちに身近な生活に関するテーマや設問が多数出題されました。これも理科と共通することです。


<身近な生活に関する問題の例>学習院女子(A入試)大問3 問7

博物館や資料館の展示室の照明が、受付やロビーよりも暗くしてある理由を説明する問題。

<身近な生活に関する問題の例>早稲田大学高等学院中学部 大問2 問6

ある県の地勢や産業の特色を説明した文章を読んで、河川の上流地域と下流地域との交流で交換された「生きていくうえで欠かせないもの」を答える問題。

<身近な生活に関する問題(LED:発光ダイオード)の例>
淑徳与野(第1回)大問3 問2 2問目/豊島岡女子学園(1回)大問3 問4/雙葉(理科) 大問1

発光ダイオード(LED)の電球が、売り上げを伸ばしている理由や、北海道・東北・北陸地方の信号機には向いていない理由を説明する問題。

なかでも、淑徳与野中や雙葉中で出題されたLEDの問題は、今年他の学校の理科の問題でもテーマに挙がりました。「熱を発生させない発光ダイオード(LED)」は「雪を溶かさない」ということがポイントです。



■2011年度中学入試<社会> 分野別の出題内容分析

次に、各分野別に見る出題内容の分析です。


(1)地理


統計資料の読み取り問題が非常に多かったです。以下に挙げるような、入試頻出の統計資料についてマスターしておきましょう。

●地形図・地図の見方
基本的な地図・断面図、分水界や産業・生活などの読み取りが、分析校120校のうち33校で出題されました。自宅を中心とした二万五千分の一の地形図を購入して、地図の見方に慣れておくとよいでしょう。

●地方別・都道府県
短文による都道府県の紹介、分県図、面積や人口、産業や工業の生産額などをまとめた表から都道府県を判断する問題が出題されました。地方別では東北が多かったです。東北が多かったのは、東北新幹線が全線開通した影響でしょうか。政令指定都市に関する出題も多く見られました。


<都道府県に関する問題の例>桜蔭 大問I 問3

地域によって特徴が見られる「自動車保有台数」と「100世帯あたりの自動車保有台数」の表から、当てはまる都道府県を答える問題。

●交通・運輸
入試頻出の国内輸送量の割合や、東北新幹線・羽田空港などの交通・運輸の新しい動向についての出題が多く見られました。産業や貿易とも結び付けて交通機関を見る視点が重要です。貿易は中国関係が目立ちました。


<運輸に関する問題の例>麻布 問10

世界の物流ついて、港ごとの「コンテナ取扱量」の表を2つの年で比べて、その変化の特徴や理由を答える問題。

●農林水産業と自給率
さまざまな農産物の自給率が問われました。水産業では、定番の「種類別漁獲量」のグラフも多く出題されました。


<農林水産業と自給率に関する問題の例>横浜雙葉 大問3 問6

日本の食糧自給率を向上させるために注目されている、小麦に代わる「原材料の名前」を答える問題。

●工業
自動車の生産高推移、工業地帯・地域の工業別出荷額割合など、定番のグラフが出題されました。

●気候
都市の気候グラフの読み取りなどが出題されました。気象・気候関係が多く出題されたのは、昨年の猛暑の影響でしょうか。



(2)歴史


歴史分野は、「周年問題」に注目しておくことが重要です。他に、史料を読み解く問題や、各時代について問われる問題もよく見られます。

●周年問題
2010年は、平城京遷都から1300年、韓国併合から100年でしたので、周年問題が多数出題されました。平城京遷都については、奈良時代を中心とした古代の出題が例年より多く、特に藤原京、平城京、紫香楽宮、平安京など都についての出題が目立ちました。韓国併合100年については、日朝関係史が多く出題され、外交史として日中関係史も見られました。2011年はチェルノブイリ原発事故から25年目ですので、福島第一原発に関連させて、来年度入試に向けて注目しておくとよいでしょう。


<周年問題の出題の例>浦和明の星女子(第1回)大問I 問2

平城京の見取り図を見て、問いに答える問題。

●史料問題
毎年、数多く出題されます。学校の教科書に載っている史料からもよく出ます。隅々までくまなく学習するようにしましょう。

●時代区分
何時代にどのような出来事があったのかをしっかりと把握しておく必要があります。奈良時代と平安時代、鎌倉時代と室町時代の区別をきちんとつけておきましょう。


<時代区分の出題の例>明治大学付属中野(第1回)大問1 問1・2

日本の時代区分の表の空欄を漢字で埋め、挙げられた争乱が起きた時代を答える問題。


(3)公民


公民分野は、時事問題重視の傾向があります。今年度出題されたテーマについては「2011年度中学入試<社会> 出題内容の分析」(1)のとおりです。その中から、いくつかのテーマについて、具体的に解説します。

●選挙(衆参両院の選挙と「ねじれ国会」)
議員の定数や選挙方法などを問う基礎学力を見る問題の他に、選挙制度とその問題点、1票の格差の問題、再び「ねじれ国会」となった影響、鳩山首相から菅首相への交替、事業仕分け、子ども手当て、高速道路無料化など、民主党政権の政策を問う問題が多数出題されました。また、国会に関連して、内閣の仕事についての出題も目立ちました。


<衆参両院の選挙の出題の例>鴎友学園女子(一次)大問3 問5

選挙直後の衆議院と参議院の議席数割合の表を4つ見て、与党と野党の議席の割合の差が、衆議院では大きくなり参議院では小さくなる理由と、その原因となる選挙の仕組みの特徴を答える問題。

●沖縄
普天間飛行場の移転問題(基地名、位置)、沖縄県に米軍基地が集中(国内の米軍基地の約75%)していることなどがよく出題されました。基地問題を切り口に、沖縄の歴史(特に琉球王国の歴史)、沖縄の自然・産業など、さまざまな角度から沖縄県が取り上げられました。


<基地問題の出題の例>法政大学(第1回) 大問3 問4

普天間基地周辺の地図を見て、基地が周辺の学校・住宅に与える影響を答える問題。


●核問題
オバマ大統領のプラハでの「核なき世界」を目指す演説の影響もあって、広島での平和記念式典やその代表的な出席者(国連事務総長パン=ギムン氏など)、ビキニ環礁が世界文化遺産に登録、非核三原則、NPT(核兵器不拡散条約)など、核に関する問題が多数出題されました。

●財政・税
厳しい日本の財政を反映して、2010年度予算の主な歳入(公債金)・歳出(社会保障関係費、国債費)の内訳やその割合などに関する問題が非常に多かったです。また、消費税を中心とした税制、消費税の問題点もかなり取り上げられていました。この分野は、来年度の入試でもねらわれると予想されます。


<消費税の出題の例>慶應義塾普通部 大問5 問3

買い物の支払いの際に収める税金の名称を答え、その税率を上げることで活用しようとしている目的を、選択肢から選ぶ問題。


●地方自治
名古屋市(愛知県)と阿久根市(鹿児島県)のリコール問題に関連して、地方自治の意義や仕組み、住民の直接請求権などが多く問われました。


プロフィール


早川明夫

社会科入試問題研究の第一人者。大学付属中高の教頭を経て、文教大学で社会科の教員養成にあたった。現在、文教大学地域連携センター講師。主な著書に『応用自在』『考える社会科地図』『総合資料日本史』『地図っておもしろい!』(監修・執筆)ほか多数。『ジュニアエラ』の総監修者。

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