なぜ「思考力」が求められる?(中編) 思考力を育てるために、学校の教育はこう変わる!

前編では、思考力とは何か、なぜ育成が求められているのかについてご紹介しました。中編では、思考力の育成に向けて、学校の授業が変わりつつある状況について、引き続き、ベネッセ教育総合研究所研究員の小野塚若菜が、共同研究者の鳴門教育大学大学院の泰山裕准教授と、東京学芸大学の中村和弘教授にうかがいます。

本気で学びたいと思うことが、思考力につながる

小野塚 新しい学習指導要領は、2020年度に小学校で全面実施され、2021年度からは中学校で全面実施されようとしています。思考力を育成するために、授業は変わっていくのでしょうか。

中村 子ども自身が考えることで、思考力は育まれていきます。ですから、子どもが本気で考えたいと思い、主体的に学ぶ授業にすることが大切になっていきます。
例えば、理科の授業では、自然現象にふれて「不思議だな。どうしてだろう」と感じるなど、学習内容に興味をもつと、子どもは自分で考えたり、自ら周囲に意見を求めたりします。「学習内容を理解したい」という意欲から、比較したり、分類をしたり、理由づけするという思考をするわけです。
これからの授業では、子どもに興味をもたせる方法の1つとして、日常生活やすでに学習した内容と結びつけるといった指導がより重視されていきます。

泰山 その意味では、先生が、子どもに「なぜこれを学ぶのか」を意識させることが重要になります。そして、学びの成果として、テストの点数だけを見るのではなく、「このように考える力がついた」といった実感を、子ども自身がもてるような授業にしていくことが大切だと思います。

教科を横断的に結んだ授業で思考力を育む

泰山 学校教育では、「教科横断」もキーワードの1つとなります。実社会のあらゆる問題は、教科ごとに設定されているわけではありません。実社会では「この問題は、国語の知識を使えば解決できる」などとわかっていることはほとんどありませんから、私たちは、それまでに学んできた知識や技能を必要に応じて結びつけて、解決策を考えることになります。
そうした思考力を育むためには、普段の授業でも、各教科での学びを横断的につなぎ、「国語で学んだ考え方が、算数や理科でも使える」「日常生活でも使える」といった体験を積み重ねることが大切です。多様な要素が入り交じる社会で子どもが活躍するために学校で学ぶのですから、各教科で学んだことを別の場面で使う練習が必要になるわけです。そうした意味で、教科横断的な指導は極めて重要だといえます。

中村 そうですね。例えば、国語の授業で、考え方や話し方、文章の書き方などのコツを身につけたら、それは他教科の学びにも活かせます。体育の授業では、試合の作戦の話し合い活動を充実させることで、各チームのパフォーマンスを高めることができるでしょう。各教科の学習を通じて思考力をしっかり身につけることと、ほかの教科の学びとも相互に関連させながら、それらの思考力を活用させていくこと、という2つの視点が大切になります。

泰山 教科横断的な学習としてイメージしやすいのが、地域の課題などをテーマに問題解決に取り組む「総合的な学習の時間」です。各教科の授業で学んだことを活用しながら、子どもが主体的に学び進めていく授業です。
「主体的に」とはどういうことかというと、子ども自身が学習のコントロール権を持っているということです。とはいえ、始めから全てを子どもに任せるわけにはいきませんので、例えば、小学校では、先生が設定したテーマに基づき、子どもがどう学ぶかを決める、中学校では、何を学ぶかというテーマも、子ども自身が考える。さらに、高校では、将来の自分の姿をイメージし、自己実現を図るために「私は何を学ぶべきか」から考えてテーマを検討する。このように、子どもの状況に応じて学習の主導権を子どもに渡していくことが考えられます。そのような学習を重ねていけば、小学校でも学習のテーマ自体も子どもと相談して決めることができるようになると思います。そして、そのように、自覚して行動できる範囲を、子どもの学齢に応じて広げていくことが、思考力を育む上で重要になると思います。

小野塚 子どもと先生との関係性や、コミュニケーションのあり方も変わるのでしょうか。

泰山 変わると考えられます。先生には、何かを教えるという役割だけではなく、子どもの主体的な学びをサポートする役割が求められます。
例えば、私が授業を参観したある小学校の「総合的な学習の時間」では、先生が子どもと同じ目線で意見を述べ、子どもから出てきた問題について一緒に議論していました。そのように、子どもと先生が意見を交わしながら、ともに考えを深めていく場面が、ほかの教科の授業にも広がっていくことが期待されます。

まとめ & 実践 TIPS

授業の変化のポイントは2つ。1つめは、先生が子どもに一方的に教える授業から、子どもが主体的に学ぶ授業への転換が求められていること、2つめは、思考力は各教科での学びをつないで伸ばしていくことです。子どもの考えを引き出す授業へと変わる中、思考力を育むためにご家庭でできることは何か。後編で考えていきます。

泰山裕(たいざん・ゆう)

鳴門教育大学大学院 学校教育研究科准教授。園田学園女子大学講師を経て、現職。専門分野は、思考力育成、授業設計、授業研究、教育工学、情報教育。学習指導要領等の改善に係る検討に必要な専門的作業等協力者(中学校「総合的な学習の時間」)や文部科学省「次世代の教育情報化推進事業」企画検証委員などを歴任。

中村和弘(なかむら・かずひろ)

東京学芸大学教育学部教授。神奈川県川崎市の公立小学校教諭や東京学芸大学附属世田谷小学校教諭を経て、現職。専門分野は、国語科教育学。中央教育審議会「言語能力の向上に関する特別チーム」委員、学習指導要領等の改善に係る検討に必要な専門的作業等協力者(小学校国語)などを歴任。

小野塚若菜(おのづか・わかな)

ベネッセ教育総合研究所言語教育研究室研究員。筑波大学大学院人文社会科学研究科博士後期課程修了。専門分野は日本語教育、言語テスト。言語能力の育成や評価・測定について関心を持っている。

≪参考≫
ベネッセ教育総合研究所
新学習指導要領で求められる「言語能力」の育成とは~言葉を通して思考力を育む~
https://berd.benesse.jp/feature/focus/27-gengo/

プロフィール

ベネッセ教育総合研究所

株式会社ベネッセコーポレーションの教育、調査、研究機関です。子ども、保護者、先生、学校などを対象に、教育に関連する調査、研究を行い、その研究成果や調査報告書、各種データを無償で公開しています。

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